デジタル赤字6.7兆円の衝撃。日本が再び競争力を取り戻すための「構造改革」とは

アルサーガパートナーズは、コンサルティングからシステム開発、保守・運用までを一貫して担うDXソリューション事業を展開し、業界・業種を問わずさまざまな課題解決に取り組んでいます。同時に、社会課題や技術の最前線に向き合いながら、これからの働き方や組織のあり方についても探究を続けてきました。
「Arsagaの最前線」は、そうしたアルサーガパートナーズの取り組みと、各分野に精通した社員の知見をもとに、社会とテクノロジーの“今”を紐解く連載です。
今回のテーマは「デジタル赤字」。なぜ今、ビジネスの現場でこの言葉がこれほどまでに重く響くのか。その背景にある構造的な課題を紐解きながら、私たちが提唱する「地方創生×内製化」という解決への道筋を探っていきます。
近年、「デジタル赤字」という言葉が経済ニュースを賑わせています。一見すると、マクロ経済の無機質なデータ項目の一つに過ぎないように思えるかもしれません。しかし、現場でDX支援に向き合う私たちの視点では異なります。この数字は単なる収支の悪化ではなく、日本の産業競争力の基盤が「静かに、しかし確実に流出している」という警鐘に映ります。
2024年、日本のデジタル赤字は約6.7兆円にまで膨れ上がりました*。この膨大な金額は、何を示しているのでしょうか。本稿では、デジタル赤字の構造的要因を解剖し、アルサーガパートナーズが提唱する「地方創生を掛け合わせた内製化」という新たな解法について考察します。
*参考:三菱総合研究所 日本:デジタル関連収支(2024年) ─ デジタル赤字は6兆円を突破、生成AI等の活用で先行きも拡大へ
目次
拡大する「デジタル赤字」。その裏側にある深刻な流出
私たちが日々利用するクラウドサービス、ソフトウェア、そしてデジタルコンテンツ。これらIT関連支出が海外へ大量に流出している現状こそが、慢性的なデジタル赤字の正体です。

この数字の恐ろしさは、「お金が外に流出していること」そのものよりも、「本来国内で蓄積されるべき技術力やノウハウが、外に流出し続けていること」にあります。
現在、日本のITサービス収支が赤字化している主な要因は、以下の3点に集約されます。
- 海外製プラットフォームへの過度な依存
クラウドやSaaSなど、インフラからアプリケーションまで「借り物」に頼らざるを得ない構造
- 輸出競争力の停滞
日本国内で開発されたデジタルサービスが、世界市場で選ばれるケースが依然として少ない
- 「作る」から「使う」へのシフト(弊害)
開発体制が追いつかず、運用さえも外部委託(ベンダー任せ)にせざるを得ない構造
貿易統計上、日本は依然として製造業に強みを持つ国ですが、デジタルという土俵においては「輸入超過」の構図が鮮明です。これは単なる収支の問題ではありません。「日本のデジタル基盤が自国の中にない」という事実は、将来的に技術の選択肢を失い、他国のプラットフォームの動向や規約変更に国の命運を握られるリスクに直結します。
たとえば、基幹システムのブラックボックス化が進めば、サイバー攻撃やシステム障害が発生した際、国内のエンジニアでは原因究明すらできず、海外ベンダーの対応をただ待つことしかできないという脆弱性を露呈します。私たちが今直面しているのは、富の流出以上に深刻な、「技術的自立の喪失」という国家レベルの安全保障上の危機なのです。
構造の弊害:多重下請けと「技術の空洞化」

長年、日本のIT業界を支えてきた「多重下請け構造」や「オフショア開発」は、コスト最適化の手段としては有効でした。しかし、デジタル化が全産業の競争力を左右する現在、このモデルは限界を迎えています。
現場で何が起きているのか
多くの企業で起きているのは、「仕様書を投げ、成果物を受け取る」だけの関係性です。この過程では、本来企業内に蓄積されるべき「ドメイン知識(業務知識)」や「技術的な肌感覚」が育ちません。
- 技術的なブラックボックス化
運用や改修が必要になった際、自社にコードやアーキテクチャを理解している人材がおらず、修正すらままならない
- 判断力の欠如
海外ベンダーからの提案に対し、それが自社にとって最適かを判断する技術的知見が国内側にない
結果、導入時は安く見えても、長期的な運用コストや機会損失を考慮すれば、極めて高くつく投資になっているケースが少なくありません。私たちは、この「外部への過度な依存」こそが、日本のデジタル競争力を蝕む元凶であると考えています。
解決策:地方から加速させる「内製化・内資化」という挑戦

では、どうすればこの負のループを断ち切れるのか。答えは「内製化」にあります。しかし、単に都市部でエンジニアを囲い込むだけでは、日本の産業全体を底上げすることはできません。
注目すべきは、「地方からのデジタル内製化」という選択肢です。
なぜ地方なのか?
地方には、都市部にはない「独自の可能性」があります。
- 現場のリアルに根ざしたデジタル実装の最前線
行政、一次産業、地場産業など、地域課題は具体的かつ現場に近い。これらを解決するソリューションは、日本全国の同様の課題を解決するモデルになり得る
- 技術と地域経済の好循環
地方でデジタル人材を育成し、拠点を築くことは、地域経済への還元と技術基盤の強化を同時に実現する
- 分散型開発の強み
あえて都市部に集中させないことで、地産地消型のITサービスが生まれやすい土壌ができる
内製化とは、ただ自社でコードを書くことではありません。「自社のビジネスモデルに最適なシステムを、自分たちで考え、運用し、磨き続ける文化」を創ることです。
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専門家からのコメント
アルサーガパートナーズ 代表取締役会長兼CTO 小俣 泰明
現在のデジタル赤字の拡大は、一企業の収支の問題ではなく、日本という国全体の未来に関わる“由々しき事態”だと捉えています。
毎年6兆円を超える国富が、デジタルの利用料として国外に流れ続けている。これは単にお金が減っているだけではありません。その裏で、本来国内で育つべきエンジニアの成長機会が失われ、技術的な知見が空洞化し、自国のインフラを自国の手でコントロールできなくなるという、極めて危うい「依存の連鎖」に陥っていることを意味します。
AI時代に突入し、デジタルの重要性がかつてないほど高まっている今こそ、私たちは意識を変えなければなりません。「海外製の方が最新で優れている」「グローバルなツールを使っている方が先進的だ」といった、一種のブランドイメージや先入観で選ぶ時代はもう終わりです。
サービスを提供する側は、日本の複雑な商習慣や言語文化、そして現場の細かなニーズに徹底的に寄り添い、海外製品には真似できない「日本に最適化された価値」を磨き上げる。そして使う側も、自国の製品に目を向け、共にプロダクトを育てていくという視点を持つ。
日本が再び誇りを持って世界と渡り合うためには、自国の技術を信じ、投資し、使い倒すという当たり前のサイクルを取り戻す必要があります。デジタル赤字の現状を認識し、官民、そして作り手と使い手が一体となってこの構造を変えていく。その決意こそが、今、最も求められているのではないでしょうか。
アルサーガパートナーズ 代表取締役会長兼CTO
(文 = 広報室 渡邉)
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