
DXコラム
DXコラム
現代のITインフラの背後には、システムが常に安定して稼働し続けるために努力している“縁の下の力持ち”がいます。IT業界でその役割を担うのが、OPS(Operations)担当者です。OPSは、企業のシステムがトラブルなく、効率的に動作し続けるための鍵を握っています。業務の大部分は表に出ることはなく、日常的に目立たない存在であるものの、その重要性は決して過小評価することができません。
本記事では、OPSの具体的な役割や業務内容、そして直面している課題、また、OPSがどれほど企業にとって不可欠な存在であるかを解説します。
目次
OPSは、システムやインフラの「運用」を担当する部門または役職の略称です。主にITシステムの維持管理を行い、企業のシステムが安定して稼働するように、24時間体制で監視を行う役割を担います。OPS担当者は、トラブルシューティング、バックアップ管理、セキュリティ対応など、システム全体のパフォーマンスと信頼性を確保するために日々動き続けています。
OPSの業務は多岐にわたります。代表的なものを以下に挙げます。
・インフラ監視
サーバーやネットワークの状況をリアルタイムで監視し、トラブルが発生する前に予兆を察知することで、問題が大きくなる前に対応します。
・障害対応
システムがダウンしたり、エラーが発生した際には迅速に問題を特定し、復旧作業を行います。復旧後は原因を追求し、再発防止策を講じることも求められます。
・セキュリティ対策
サイバー攻撃や不正アクセスからシステムを守るため、ファイアウォールの管理やパッチ適用、アクセス制御などの業務が含まれます。
・バックアップ管理とデータ保護
定期的なデータバックアップを実施し、災害時やシステム障害時にも迅速にデータを復元できる体制を整えます。
・ソフトウェアのアップデートとパッチ適用
ソフトウェアやシステムの更新プログラムを適用し、セキュリティリスクやバグを修正します。これによりシステムが最新かつ安定した状態で稼働し続けることが保証されます。
普段は、システムが稼働していることを当たり前のものとして扱われがちですが、その背後にはOPSの膨大な努力と管理が存在します。システムやサービスが順調に稼働しているときは、OPSの存在が注目されませんが、問題が発生するとその重要性が顕在化します。企業の競争力や信頼性が直接的に影響を受けるため、OPS担当者の役割は極めて重要です。
OPS担当者の業務は、表に出ることが少なく、一般の人々にはその役割が見えづらいことが多いです。しかし、実際には非常に多忙で責任重大な業務を担っています。ここでは、OPS担当者が日常的に行っている業務を具体例を交えて見ていきましょう。
OPS担当者は、毎日システムが正常に稼働しているかを監視し、問題が発生した際には即座に対応する必要があります。たとえば、Webサイトのパフォーマンスを監視するためにDatadogやNew Relicなどのツールを使用することがあります。これらのツールで、システムの稼働状況やエラーメッセージをリアルタイムでモニタリングし、トラフィックの増加やサーバーの過負荷を早期に発見することができます。
実際のケースとして、Webサイトに高負荷がかかり、処理が遅くなっていることを監視ツールで発見したOPS担当者は、サーバーリソースを増強するためにクラウドサービスのスケーリング機能を使用して迅速にリソースを追加。これにより、ユーザーへの影響を最小限に抑えることができました。
システムに障害が発生した場合、OPS担当者は迅速に原因を特定し、復旧作業を行います。たとえば、定期的なバックアップ中にデータベースがロックされてしまったことが原因で、データベースサーバーに接続できないという問題が発生したような場合に、OPS担当者は、バックアッププロセスを一時停止し、データベースのロックを解除して復旧作業を行います。
さらに、システムダウン後には障害報告書を作成し、どのような原因で障害が発生し、どのように対応したのかをチーム全員で共有します。これにより、再発防止のための対策を講じることができます。
OPSの業務の中でも、セキュリティ対策は最も重要な部分の一つです。サイバー攻撃や不正アクセスに備え、システム全体のセキュリティを常に強化する必要があります。たとえば、ランサムウェア攻撃の兆候を検知するために、全社的にログイン履歴やファイルの変更履歴を監視するシステムを導入するケースがあります。
具体的な例として、過去に発生したあるランサムウェア攻撃では、OPSチームが異常なファイルの暗号化を監視ツールで早期に発見し、攻撃が拡大する前に対策を講じることができました。その後、攻撃元を特定し、外部からのアクセスを遮断。すべてのシステムを隔離し、被害を最小限に抑えることができました。
OPS担当者は、システムの運用を支える重要な役割を担っているものの、その業務にはさまざまな課題が存在します。これらの課題は、技術的な側面だけでなく、人的な面でも発生することがあります。ここでは、OPSが直面する代表的な課題をいくつか具体的な事例を交えて紹介します。
現代のITインフラは非常に複雑で、多くのシステムが絡み合っています。たとえば、クラウドサービス、オンプレミスのサーバー、コンテナ技術(DockerやKubernetes)など、多様な技術を組み合わせてシステムを構築するケースが増えています。これにより、OPS担当者は複数のプラットフォームやツールを管理しなければならず、作業負担が増加しています。
OPSの業務は非常に多岐にわたるため、十分なリソースを確保することが困難な場合があります。特に、IT業界では人手不足が深刻な問題となっており、OPS担当者が過剰な負担を抱え込んでしまうケースもあります。
障害が発生した場合、その原因を突き止める作業は非常に時間がかかり、かつ複雑です。特に、システムが巨大で複雑になるほど、問題の根本原因を見つけ出すのは難しくなります。OPS担当者は、ログファイルを解析し、数々のシステムコンポーネントの間で発生している問題を特定しなければならず、障害復旧に時間がかかることがあります。
OPS担当者は、システムの安全性を守るために常に最新のセキュリティ対策を講じなければなりません。しかし、サイバー攻撃や不正アクセスの手法は日々進化しており、OPS担当者はその変化に迅速に対応し続ける必要があります。さらに、セキュリティのためのシステム更新やパッチ適用を行うタイミングも重要です。
OPSの役割は今後、テクノロジーの進展とともに大きく変化していくと予測されています。特に、AI(人工知能)や自動化技術の進化は、OPS業務の効率化と負担軽減を促進すると考えられています。ここでは、OPS業務の未来について、どのように進化していくのかを探ります。
OPS業務での自動化が進むことで、日々の作業が効率化され、OPS担当者はより高度な業務に集中できるようになります。たとえば、以前はサーバーを新たに追加するたびに手動で設定を行っていたものの、現在ではツールを使って、数回のクリックでサーバーを準備することができるようになりました。
以前は「新しいプロジェクトのためにサーバーを増やしたい」といった際、手作業でリソースを準備していた企業もあります。サーバー設定やネットワークの構成を手動で行うと、どうしても時間がかかってしまう上に、人為的なミスが発生することもあります。しかし、今ではツールを使ってスクリプトを実行すれば、必要なリソースが数分で整い、OPS担当者は他の重要なタスクに時間を割けるようになっています。
AI技術の導入も、OPS業務に革新をもたらしています。たとえば、AIが大量のデータを解析して、システムの異常や問題の兆候を自動で検出する仕組みが進化しています。これにより、OPS担当者はシステムに何らかの異常が発生する前に、予測的に対応することができ、サービスのダウンタイムを最小限に抑えられるようになっています。
AIを活用した監視ツールを導入している企業では、これまで手動で確認していたサーバーの負荷状況やトラフィックの動向をAIがリアルタイムで監視し、異常を予測することが可能になっています。過去にトラフィックの急激な増加が原因でサーバーが一時的にダウンした事例があった場合、AIはそのパターンを学習し、トラフィックが急増する前に警告を発することができるようになります。
クラウドネイティブ技術の普及も、OPS業務に大きな影響を与えています。コンテナ技術(例えばDockerやKubernetes)を活用することで、システムのスケーラビリティや柔軟性が大幅に向上しました。これにより、OPS担当者はより効率的にシステムを管理し、リソースの最適化を簡単に行うことができるようになっています。
たとえば、クラウドベースのインフラを利用している企業では、サーバーの立ち上げやスケーリングを手動で行う必要がなくなり、リソースを必要に応じて即座に増減させることが可能になりました。また、特定の時期にアクセスが集中するサービスを提供している企業では、需要が増える前に予測してリソースを自動的に追加し、サービスが遅延することなく提供できるようになっています。
今後、OPS担当者は、開発チームとさらに密接に連携して、アプリケーションの運用を支える役割を強化していきます。これは、DevOpsの進化とともに進んでいます。開発と運用の壁を取り払い、システムの改善を迅速に行うことが求められています。
たとえば、ある企業では、開発者とOPS担当者が定期的にミーティングを開き、新しい機能が運用環境にどのように影響を与えるかを事前に評価しています。これにより、開発チームは新しいコードをデプロイする際に、OPS担当者と連携してシステム全体に対する影響を最小限に抑えることができます。これまで別々に行われていた作業がシームレスに進行し、サービスが迅速に改善されるようになっています。
このように、OPS業務はこれからも技術の進化とともに、ますます効率化され、進化していきます。自動化やAIの導入により、OPS担当者はルーチン作業から解放され、より価値のある業務に時間を割くことができるようになるでしょう。
関連記事:DevOpsエンジニアとは?役割・スキル・キャリアパスを徹底解説!
OPS業務の進化に触れましたが、最も大切な点は、OPS担当者が担っている役割の重要性が決して薄れることはないということです。むしろ、テクノロジーの発展に伴い、その価値はますます高まっていると言えるでしょう。OPS担当者は、企業のシステムが日々安定して稼働するために、常に背後で支え続ける存在であり、いわば「縁の下の力持ち」としての役割を果たしています。
OPS担当者の最も基本的な使命は、サービスやシステムを常に安定して稼働させることです。特に今の時代、システムのダウンタイムが与える影響は非常に大きく、企業の信頼性や顧客満足度に直結します。システム障害が起きないよう予防策を講じること、もしもの時には迅速に復旧させることが求められます。
OPS担当者はシステムのセキュリティにも大きな責任を負っています。サイバー攻撃や情報漏洩などのリスクに対して、システム全体を常に監視し、予防策を講じていく必要があります。安定した運用だけでなく、セキュリティが保たれていることが、企業の信頼を支える礎となります。
システムの運用だけでなく、OPS担当者は企業のリスク管理にも大きな役割を果たしています。たとえば、災害や予期せぬ障害が発生した場合に備えて、事業継続計画(BCP)を立て、システムの復旧手順をあらかじめ準備しておくことは不可欠です。これにより、何か問題が発生した際にも、企業は迅速かつ確実に業務を再開できます。
OPS担当者は、単にシステムを運用し続けるだけでなく、常に改善を追求しています。技術の進化に合わせてシステムの最適化を行い、より効率的でコストパフォーマンスの高い運用を目指します。新しい技術を取り入れたり、既存のプロセスを見直すことで、企業の成長を支える基盤を作り上げています。
OPS業務は、単なる「運用」にとどまらず、企業の成長と持続可能性に欠かせない基盤を作り上げる重要な役割を担っています。テクノロジーが進化する中で、OPS担当者はその「縁の下の力持ち」として、システムの安定稼働やセキュリティ強化、リスク管理を通じて企業を支え、今後のビジネスの成功を後押しする存在です。
自動化やAI、クラウド技術の導入により、OPS業務はますます効率化され、高度化しています。しかし、その本質的な役割—企業の持続可能な運営を支えること—は変わることなく、むしろ今後さらに重要性を増していくでしょう。OPS担当者の存在なくしては、どんなに優れたシステムやサービスも安定して提供することはできません。
これからのOPSは、単なる管理者ではなく、企業の成長を支える戦略的なパートナーとしての役割を果たすでしょう。進化し続けるテクノロジーの中で、OPS担当者はその中心で、システムの運用と最適化、そして未来の挑戦に立ち向かう鍵となる存在であり続けるのです。
(文=広報室 尹)