学校の声から生まれた、現場で使われる教育生成AI。「AI+Me(アイミー)」開発の舞台裏

悩む生徒にも、忙しい先生にも。そっと寄り添うAIをつくる。「人をつくるアルサーガ。」第135回となる今回は、開発者の思いに踏み込む特別編。教育現場に特化した生成AIサービス「AI+Me(アイミー)」を手がけるリードエンジニア・中津さんに話を聞きました。
「AI+Me」は、教育現場のリアルな声から生まれたサービスです。生徒や先生が直感的に使える操作性と、安心して導入できる安全設計を両立し、“ともに考える学び”を支える存在を目指しています。
もともとこの取り組みは、2024年に千代田区立九段中等教育学校で導入された「otomotto」をベースに発展したもの。現在は、千代田区立の小・中学校すべての教員・生徒・児童に向けて、AI+Meの全校導入が進んでいます。
そんな教育AIの開発には、どんな思いや背景があったのか。誕生の経緯やこだわり、現場との向き合い方について、中津さんにじっくり話を聞きました。
関連プレスリリース:
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“第二の先生”?!生徒と先生の両面で教育現場を支える「AI+Me」
――まずは、「AI+Meというサービスについて、簡単に教えてください!
AI+Meは、学校教育の現場に特化して開発された生成AIシステムです。児童や生徒、そして学校の先生が日常的に使いやすいよう、画面デザインや操作性を工夫しています。
生成AIとして質問に答えるだけでなく、学校ごとの教科書データを読み込ませることで、その学校独自の内容に基づいたテスト問題を簡単に作成できたり、生徒が自分で質問して理解を深められたりします。
さらに、生徒同士でチャットできる対話機能に加えて、グループワークをサポートする「ディスカッション機能」も搭載しています。授業中の話し合い活動や共同学習をよりスムーズに進めるために活用されている点も大きな特徴です。

――他の教育向け生成AIサービスとの違いはなんですか?
一番大きな違いとしてお客様から高い評価をいただいているのが、「ディスカッション機能」を備えている点です。
この機能では、生徒同士がチャット形式で会話をし、そのやりとりの中に、役割を与えられた“擬人化生成AI”がメンバーの一人として参加します。生成AIには役割を設定でき、たとえば「要約担当」「批判的視点を示す担当」など、議論の質を高めるキャラクターを自由に配置することができます。
このアイデアは、「生成AIはすぐに“それらしい答え”を出してしまうが、それでは生徒の学びが深まらないのではないか」という先生たちとの議論から生まれました。中学校や高校の授業では、生徒同士が意見交換をするグループワークが頻繁に行われます。しかし、生徒が考えるより先にAIが正解らしきものを提示してしまうと、思考力や議論の深まりにつながりにくいという課題がありました。
そこで、まず生徒同士の議論をしっかりと白熱させ、その後にAIがフィードバックを行うという流れをつくるために、このディスカッション機能を開発しました。先生が少なく、グループワークを同時進行で見守りきれない授業が多い中、この生成AIが“第二の先生”として議論を支援してくれる点が高く評価されています。
多くの教育向け生成AIサービスは、教科書データをもとにした「1対1の質問応答」が中心で、どうしても“システム対ユーザー”という関係になりがちです。その中で、AI+Meは複数人によるコミュニケーションや、多角的な学びを実現できる点が大きな特徴だと考えています。

さらに、AI+Meでは複数のLLM(GPT、Claudeなど)を同時に使える機能も備えています。同じ質問に対して複数モデルの回答を並べて比較できるため、ハルシネーション(AIが誤った情報をもっともらしく回答してしまう現象)の対策にも役立ちます。
生成AIは便利な一方で、時に誤った回答を提示します。しかし、まだ若い生徒の中にはそれを見抜けないケースがあります。だからこそ、複数モデルの回答を比較しながら、生徒自身が「どれが正しそうか」を判断する力を育てることを大きな目的としています。生成AIの使いこなし方そのものを学べる点も、AI+Meの価値だと感じています。

――学校特化サービスとして、「生徒の個人情報保護」と「不適切な情報の生成抑制」はどのように担保していますか?
一般的な生成AIサービスでは、ユーザーが入力した内容がLLMの学習に利用されることがあります。しかし、教育現場で安心して使っていただくためには、生徒一人ひとりの情報を確実に守ることが最優先です。そこでAI+Meでは、やりとりが学習に使われないようシステムを設計しています。
また、児童や生徒を保護する観点から、「不適切な質問や画像」に対してAIが反応しない仕組みも導入しています。不適切と判断する基準はAI側でスコアリングを行い、一定のしきい値を超えた場合は、回答を生成せずに「不適切です」と表示されるようになっています。万が一、生徒から不適切な内容が入力された場合でも、AIが誤ってそのまま答えることはありません。
今後は、お客様からのご要望や現場での運用状況を踏まえて、教育現場により適したしきい値や判断基準の更新も検討しています。


――実際に導入した学校からは、どのような効果や反応が届いていますか?
児童・生徒の具体的な活用成果については、個人情報の観点から慎重に扱う必要があるため、現時点では公開していません。しかし、先生方の校務においては、すでに大きな効果が出ているという声をいただいています。
日々の文書作成や校務処理にかける時間を削減できたことで、事務作業全体が効率化され、作業時間は約50%も短縮されたという報告があります。さらに、保護者通知のテンプレート作成や決裁プロセスの迅速化にも寄与しており、これらの負担軽減によって、先生が生徒と向き合う時間をより多く確保できるようになっているそうです。
校務の効率化は、単に作業時間を削るだけでなく、先生方が本来注力したい教育活動に力を注げる環境づくりにつながっていると感じています。
――作業時間半減は素晴らしい効果ですね!
手触りで課題を捉える。現場とともに育てる「AI+Me」
――教育現場は新しいテクノロジーの導入に課題があると言われますが、AI導入に踏み切れない最大の障壁は何だと考えますか?
先生方や学校のシステム担当の方々とお話ししていて、最も大きな障壁だと感じるのは「生徒や先生が実際に使ってくれるのかが見えにくい」という点です。
教育現場はDXの進みが遅いと言われがちですが、それは“意欲がないから”ではありません。先生たちは本当に忙しいのです。
新しいシステムを導入するとなれば、生徒に使ってもらう前に、まず先生自身が操作方法を理解しておかなければなりません。しかし、日々の授業準備、生徒のサポート、場合によっては部活動の指導まで抱えており、新しいツールを習得するための時間を確保すること自体が大きな負担になります。
私たちは日常的にDXやAIを扱う仕事をしていますが、先生にとって最優先は常に“生徒”。DXはどうしても二の次になってしまうのが現実です。
本来、AIを含むDX施策は授業準備の効率化や生徒の学習フォローにつながり、先生たちを楽にするためのものです。しかし、その“楽になる未来”のために必要な初期導入のリソースを捻出することすら難しい。これが今の教育現場の課題だと感じます。
さらに、セキュリティや個人情報の扱いなど、生徒を守るための配慮も絶対に欠かせません。先生の多忙さに加えて、この点も導入を慎重にさせる大きな理由です。
それでも、これからの時代を担う若い世代が、いまのうちからITやAIに触れ、活用する経験を積むことは非常に重要だと考えています。
――そんな学校側の障壁を無くすために、何か取り組んでいることはありますか?
AI+Meに興味を持ってお問い合わせいただいた学校には、定期的にご連絡し、現場でどんな点に困っているのかを丁寧に伺うようにしています。
また、必要に応じて実際に学校を訪問し、現場の課題を自分の目で確認することもあります。そうすると、先生方が日々どんな部分で悩んでいるのか、どんな動線が負担になっているのかといった“手触り感のある課題”がよく見えてきます。やはり、生の声は何よりの宝だと感じます。
いただいたフィードバックは開発にも積極的に反映し、AI+Me自体の進化につなげています。現場の課題をリアルに理解し、それをプロダクトに還元することが、結果的に学校の障壁を取り払う一番の近道だと思っています。

――なぜそこまで“現場に寄り添うこと”を大切にしているのでしょうか?
先生って本当に大変だと思うんです。とにかく忙しくて、常に生徒のために動いている。まずはそんな先生方の力になれたら嬉しい、という気持ちが根底にあります。
そしてもう一つは、学校教育そのものに少しでも貢献したいという思いです。実は私自身、学生時代は勉強が得意なタイプではありませんでした。その理由のひとつは、わからないことを先生に聞けない“内気な性格”でした。質問したいけれど勇気が出ない、わからないままにしてしまう…。
だからこそ、今の小中学生たちに「安心して聞ける環境」があることはすごく大切だと思うんです。AI+Meがその“最初の一歩を踏み出すきっかけ”になれたら嬉しいですし、自分が感じていた苦しさを少しでも軽減できたらと思っています。
このサービスひとつで教育現場全体を劇的に変える、という大それたことは考えていません。でも、一人ひとりに寄り添うことはできます。目の前の生徒の困りごとを解決するきっかけになれたらと思います!
一人ひとりの学びを支え、生徒とともに進化し続ける“学習の最強の味方”へ
――生成AI技術を教育分野で使うことに対して、開発者としてやりがいを感じることはありますか?
やりがいは本当に多いです。まず、教育現場に生成AIという新技術を届ける機会をいただけていること自体、とてもありがたいことだと感じています。自分が作ったサービスは、いわば“自分の子ども”のような存在です。その“子ども”が、生徒という実際のユーザーと一緒に成長していくのを見ると、本当に嬉しい気持ちになります。
教育現場では、生成AIが頼りになる場面は本当に多いと思うんです。勉強に関する悩みはもちろんですが、使い方次第では人生の相棒のような存在になれる可能性もあります。特に、AI+Meを導入いただいている学校には、多感な年頃の生徒がたくさんいます。勉強の悩みだけでなく、友達との喧嘩だったり、先生や親には相談しづらいことだったり…。仲がいい友達だからこそ話せない悩みもある時期です。
そんな時に、一番素直に相談できる相手としてAIが寄り添えるのではないかと思っています。しがらみなく相談できて、後腐れがない。必要な時だけいつでも相談できる。AI+Meが、そんな“ちょうどいい距離感の相談相手”になれるかもしれないのです。
子どもたちの悩みをそっと支えられるサービスをつくれていることを、とても誇りに思っています。

――導入を検討している学校の担当者に向けて、導入時に特に準備しておくべきことや、スムーズに活用を始めるためのアドバイスをお願いします。
教育業界で働く方は、DXやAIの導入に対してハードルを感じているケースが多いと思います。その気持ちは、これまでさまざまな学校の方と対話してきた中で、とてもよく理解できるようになりました。
一方で、「教育をもっと良くしたい」という強い熱量を持っている先生方や職員の方も本当に多いと感じています。私たちは、そうした熱意を持つ皆さんを全力でサポートしたいと思っています。
今いる先生や職員の方たちだけで導入までの準備を進めるのは、とても負担が大きく、難しいものです。だからこそ、まずは一度ご連絡をいただければ、相談ベースでも構わないのでサポートさせてください。
「こんなこと聞いていいのかな?」と思うような内容でも問題ありませんし、30分ほどお話をするだけでも構いません。導入する・しないに関わらず、現場の課題について意見をいただけること自体が、AI+Meの改善にもつながります。
私たちは教育現場のプロではありません。だからこそ、現場の皆さんから寄せられる声を大切にしたいのです。お気軽にご連絡ください。
――「AI+Me」の今後の展望を教えてください。
もっと学校のお役に立てるよう、さまざまな新しい機能を開発していきたいと考えています。今すでに動いている取り組みでいえば、音声でAIと会話できる機能です。キーボードを使わなくても、声だけで質問したり相談したりできるようになれば、より幅広い生徒が自然に活用できるようになると思います。
また、ファイル分析機能の強化にも取り組んでいます。分析精度が高まれば、テストの解析や授業補助なども、わざわざチャットに入力しなくても処理できるようになり、効率的な学習支援につながります。
そして、個人的に将来実装したいのが「マイページ機能」です。生徒一人ひとりの進捗や理解度を個別に分析できるようになれば、今どこにつまずいているのか、どんな傾向があるのかが可視化されます。
日々の学習に対する悩みをAIが捉えて、「最近はこういう部分でつまずいているから、こういう勉強をするといいよ」といったフィードバックを返せるようになったら、とても便利だと思うんです。自分の状況を客観的に把握するのは、大人でも難しいこと。まして小中学生にとってはなおさらです。
だからこそ、「AI+Me」が“自己分析の苦手さ”をそっと補い、学習の最強の味方になれるようにしたい。その方向に向かって、これからも進化させていきたいと思っています。

――ありがとうございました!
(取材・編集・文=広報室 渡邉)