グラフデータベース入門!つながりがカギを握る時代へ

日常的に私たちが使用しているサービスには、例えばSNSの友達とのつながりや、動画配信サービスなどのおすすめ機能があります。こうしたネットワークの裏側では、ある特別なデータベースが使われています。それが「グラフデータベース」です。
一見、専門的な用語に聞こえるかもしれませんが、グラフデータベースは意外にも私たちの生活に深く関わっています。この記事では、「グラフデータベースとは何か」という概念から、どのような場面で活用されているのか、人気で代表的な製品にはどんなものがあるのかまで、わかりやすく解説していきます。
「名前は聞いたことあるけど、実際よく分からない」そんな方にもピッタリな入門記事として、ぜひ最後までお読みいただき、その魅力を発見してください。
グラフデータベースとは

通常のデータベースとの違い
一般的なデータベースといえば、行と列で構成される「リレーショナルデータベース(Rデータベース)」が思い浮かぶかもしれません。Excelのような表形式でデータを格納し、管理するスタイルです。データのプロパティを厳密に定義した「スキーマ」に従ってデータを整理するため、データの整合性を保ちやすいというメリットがあります。
一方、グラフデータベースは「ノード」と「エッジ」という、全く異なる考え方で情報を管理します。ノードは人や物、出来事といったモノそのもの(エンティティ)を表し、エッジはそれらのノード同士のつながりや関連性を示します。
例えば、人と人の友人関係や、商品とユーザーの購入履歴など、つながりそのものが重要になるケースでは、表形式よりもグラフ形式の方が直感的で効率的なのです。
グラフデータベースが優れているのは、つながりをただ記録するだけでなく、すばやくたどれる点にあります。データ間の関係を直接的にたどれる構造になっているため、例えば「この人とこの人の共通の知り合いは?」といった質問に対しても、非常にスムーズに答えを導き出せるのです。
リレーショナルデータベースでは、複雑なつながりを表現するために、複数の表をSQLの「JOIN」操作で結合する方法を使用します。しかし、この手法はつながりの数が増えるほど実行に時間がかかり、効率的ではありません。グラフデータベースは、ノードとエッジが直接接続されているため、経路の探索が高い効率で行える点が、リレーショナルデータベースとの決定的な違いです。
ノードとエッジ、プロパティの構造
グラフデータベースの基本単位は、「ノード(Node)」と「エッジ(Edge)」です。ノードはデータの対象を表し、エッジはそれらの関係性を示します。さらに、ノードとエッジの両方に「プロパティ」と呼ばれる属性を付加することができます。
たとえば、ユーザーのノードに「名前」「年齢」といったプロパティを持たせたり、「友達」というエッジに「いつから友達か」といったプロパティを付加したりすることが可能です。この柔軟なモデルにより、複雑な人間関係や取引関係を直感的に表現することができます。
グラフデータベースは、数学的な手法でネットワークの特性やつながりを分析する「グラフ理論」に基づいています。これはグラフデータベースのコアとなる概念です。
グラフデータベースの強みと活用事例

複雑な関係性を直感的に扱える
現代のビジネスやサービスは、単純なデータの羅列では対応しきれないほど複雑な情報構造を持っています。例えば、SNSにおける友達の友達のような関係や、商品購入履歴に基づいたおすすめ機能など、関係性を理解しなければ成立しない機能が多くあります。
こうした状況において、グラフデータベースは大きな力を発揮します。ノードとエッジという構造により、誰と誰がどう関係しているのかを視覚的にも把握しやすく、データ構造自体が関係性を内包しているため、設計や保守の手間も軽減されます。
検索や探索が高速
特に注目されるポイントは、検索スピードの速さです。グラフデータベースは関係性に着目した探索処理が得意であり、「この人の友達の中で、同じ映画を見た人は?」というような、複雑なパターンマッチングを高速に処理できます。
従来のリレーショナルデータベースでは、テーブルを何重にも結合しなければなりません。データセットが大きくなるにつれて実行速度が低下しがちになりますが、グラフデータベースではノード間のリンクをたどるだけで答えにたどりつけるため、スピーディかつ効率的です。
拡張性と柔軟性
もう一つの魅力は、拡張性の高さです。新しいノードや関係性を追加するのも容易で、複雑な設計変更をせずともシステム全体を進化させることが可能です。また、データのモデルを事前に厳密に定義する必要がないため、新しいプロパティやつながりを後から簡単に追加できます。これにより、さまざまなカテゴリのデータを柔軟に統合できます。
例えば、ある商品に対して新しいタグ情報を追加したい場合でも、既存の構造に手を加えることなく、タグのノードを新設し、該当商品とエッジで繋ぐだけで済みます。こうした柔軟な設計は、変化の激しい時代にこそ、大きな武器となるでしょう。
これらの強みから、グラフデータベースはさまざまな領域で使用されています。
ソーシャルネットワークでの利用

グラフデータベースが特に活躍している分野の一つが、ソーシャルネットワークです。ユーザー同士のつながりをモデル化し、友達の友達、共通の趣味を持つ人など、新しいつながりを発見するために使用されます。
誰と誰が友達なのか、どのグループに属しているのか、どの投稿に「いいね!」を押したのか。これらの情報はすべて、ノードとエッジによって自然に表現できる関係性です。さらに、「友達の友達を表示する」「共通の興味を持つ人をおすすめする」といった処理も、グラフ構造であれば効率よく実現できます。
レコメンドエンジン
「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」「この映画を見たなら、次はこちらもおすすめ」といった提案も、グラフデータベースが得意とする分野です。
ユーザー、商品、購入履歴、閲覧履歴というノードをエッジで結ぶことで、複雑な関係性を元にパターンを導き出し、関連する商品やコンテンツを推奨します。これにより、ユーザーが購入した商品と、その商品を購入した他のユーザーが購入した商品を見つけることで、パーソナライズされた提案を行うことができます。これは、ECサイトや動画配信サービスで多く活用されています。
ネットワークセキュリティと不正検出
金融機関やセキュリティ会社では、不正アクセスやマネーロンダリングの検出にグラフデータベースが用いられることもあります。
例えば、複数の口座間で不自然に資金が移動している場合や、特定のIPアドレスから繰り返しログインを試みているようなケースなど、通常の監視では見逃されがちな微細なデータセットをグラフで可視化することで、迅速に異常を察知でき、結果を迅速に分析し、対策を講じることができます。
こうした活用は、関係性の深さ、つながりの複雑さに焦点を当てられるグラフデータベースだからこそ実現できるものです。
データベース別:代表的な製品
現在、市場にはさまざまなグラフデータベース製品があります。
Neo4j
最も人気があり、広く使用されているグラフデータベースの1つが「Neo4j(ネオフォージェー)」です。オープンソースとしてスタートしたこのデータベースは、今では多くの企業で採用されています。
特徴的なのは、「Cypher(サイファー)」と呼ばれる独自のクエリ言語です。初心者でも学習しやすい、グラフ構造を直感的に記述できるこの言語により、関係性のあるデータを簡単に扱えるようになっています。また、可視化ツールも充実しており、分析やデバッグのしやすさも魅力の一つです。
Amazon Neptune
「Amazon Neptune(アマゾン・ネプチューン)」は、AWS(Amazon Web Services)が提供するマネージド型のグラフデータベースです。Neo4jのようにサーバーを自前で構築する必要がなく、クラウド上ですぐに使える点が特徴です。
Neptuneは、グラフクエリ言語として「Gremlin(グレムリン)」や「SPARQL(スパークル)」など複数の標準規格をサポートしており、用途や好みに応じて柔軟に使い分けることができる高いスケーラビリティが特徴です。大規模なインフラを簡単にスケールアップ・ダウンできるのも、AWSならではの利点と言えるでしょう。
TigerGraph など他の選択肢
さらに注目されているのが「TigerGraph(タイガーグラフ)」です。リアルタイム分析に強く、大量のデータでも高速に処理を行える点が評価されています。ビジネスインテリジェンスや金融分析の現場など、厳しい性能が求められるシーンで採用されることが多い傾向にあります。
その他にも、オープンソースの「Arangoデータベース」や「Orientデータベース」など、多機能なグラフも存在します。ユースケースや開発環境に合わせて、最適な選択をすることが重要です。これらの製品には無料でダウンロードして試せるものも豊富にありますので、実際に使用して学ぶのも良い方法です。
導入のポイントと注意点
どんな用途に向いているか
グラフデータベースは、すべてのデータ処理に万能というわけではありません。特に効果を発揮するのは、関係性が重要なデータを扱う場合です。例えば、SNSのユーザー関係、商品と顧客の行動履歴、企業間の取引構造など、繋がりの構造そのものが意味を持つ場面では、他のデータベースでは得られない柔軟性と速度を発揮します。
一方で、会計帳簿のような一対一で管理されるシンプルなデータには、従来のリレーショナルデータベースの方が適している場合もあります。目的に応じて、使い分けることが大切です。

導入前に確認しておきたいこと
導入を検討する際は、以下の点を事前に確認しておくとスムーズです。
データの性質:
対象とするデータが「ノード」と「エッジ」で自然に表現できるか。ブログなどのコンテンツも、著者と記事、記事とキーワードといったつながりとして捉えられます。
クエリ言語の習得:
CypherやGremlinといった、グラフ特有のクエリ言語を使いこなせる体制があるか。
運用体制:
グラフ構造の変化に対応できる柔軟な設計や運用が可能か。
パフォーマンス要件:
探索や検索の速度に対する具体的な要件があるかどうか。
また、グラフデータベースは視覚的に分かりやすい反面、構造が複雑になりやすいため、関係性の設計に時間をかけることも忘れてはいけません。丁寧な設計と試験運用を行ったうえで、本格導入へと移行するのが理想です。
まとめ
グラフデータベースは、関係性を中心に据えた情報管理が必要とされる現代において、非常に有効な選択肢の一つです。人と人、モノとモノ、出来事と出来事、それぞれがどのようにつながっているのかを明確にし、そしてそのつながりから新しい価値を発見する。そんなニーズに応えるために生まれた仕組みと言えるでしょう。
従来のリレーショナルデータベースでは見落とされがちだった複雑な関係性も、グラフ形式なら直感的に把握することができます。特に、SNS、レコメンドエンジン、不正検出などの分野では、すでに欠かせない技術として定着しつつあります。
とはいえ、すべての用途に適しているわけではありません。会計帳簿のようなシンプルなデータには、従来のリレーショナルデータベースの方が適している場合もあります。そのため、導入前には、自社のデータ構造や目的に合っているかを見極める必要があります。場合によっては、他のデータベースと併用することで、より効率的な運用が可能になることもあります。
関係性が価値を生む時代。グラフデータベースは、その中心的な役割を担う存在として、今後ますます注目されていくことでしょう。
(文=広報室 白石)