データで見る「デジタル赤字」の正体。脱却の鍵は地方創生にあり?!

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近年、「デジタル赤字」という言葉を耳にする機会が増えてきました。一見すると経済データの一項目にすぎないようにも思えますが、実はこの問題、日本のIT産業ひいては国家としての競争力に深く関わる重大な課題なのです。

現在、日本企業が利用するソフトウェアやクラウドサービスの多くは海外製。結果として、IT関連支出が国外に流れ、貿易収支は年々悪化しています。この赤字が厄介なのは、モノではなく「技術と知識」が海外に流れている点です。ノウハウが国内に蓄積されず、技術的な自立性が損なわれつつあります。

今後、国内の産業競争力や情報セキュリティが脅かされるリスクもある中で、注目されているのが「内製化」と「内資化」です。この記事では、データをもとにデジタル赤字の実態を読み解き、その解決策としての内製化、そして地方創生との接点を探っていきます。

日本で拡大し続けている「デジタル赤字」とは何か

海外依存が深刻化するデジタル分野

いま日本は、デジタル分野において慢性的な赤字体質に陥っています。私たちが日々使っているクラウド、ソフトウェア、デジタルコンテンツの多くは、海外企業のサービスに依存しているのが現状です。

2024年、日本の「デジタル赤字」は約6.7兆円にまで拡大しました。この赤字には、クラウドサービスを含むコンピュータ関連サービス、著作権等使用料、経営・専門コンサルティングサービスなど、複数の分野が含まれています。前年と比較して約0.9兆円増加しており、デジタル関連支出の海外依存がさらに進んでいることがうかがえます。

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この金額は単なるコストではありません。本来、国内で開発や運用を通じて得られるはずだった利益や経験、そして技術的な知見が国外に流出しているということを意味します。

ITサービス収支が赤字化している理由

こうした赤字が拡大している背景には、主に次のような要因が挙げられます。

  • クラウドやソフトウェアなど、海外製サービスへの依存が高まっている
  • 日本からのデジタルサービス輸出が十分に伸びていない
  • 国内での開発体制や技術の蓄積が追いついておらず、外部委託が常態化している

このままでは、単にお金が国外に流出するだけでなく、本来日本国内で生み出されるべきデジタルの付加価値までが失われてしまう可能性があります。

貿易統計から見る海外依存の実態

貿易統計全体を見れば、製造業を中心に輸出が強いというイメージが根強いですが、サービス貿易、特にデジタル関連においては逆向きの流れが見えています。たとえば、2023年の日本のサービス収支はマイナス3.20 兆円(赤字)となり、前年から赤字幅が縮まったとはいえ、依然として大きなマイナスです。

このように、デジタルサービスの輸入超過が貿易収支・サービス収支の中で「見えにくいが確実な」赤字構造を生んでおり、これは「海外依存」が背景にあると言えそうです。

海外依存の裏にあるリスク

海外のデジタルサービスや技術への依存が進むことで、日本は単に「コストがかかる」以上のリスクを抱えることになります。特に注視すべきなのが、経済的なリスクとセキュリティ上のリスクです。以下では、それぞれの側面について詳しく見ていきましょう。

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経済的リスク:富が海外へ流出する構図

海外サービスや技術に頼ることで、本来国内で生まれるはずだった付加価値が国外に流れてしまう。このことが、日本の産業成長の機会を奪いかねないという懸念があります。

日本のデジタル収支は恒常的な赤字状態にあり、その規模は年々膨らんでいます。私たちが日々利用するデジタルサービスの多くが海外製であり、その利用料として「国富」が流出し続けているのが現実です。これは単なる収支の問題にとどまらず、国内における雇用や技術基盤が育たないという深刻なリスクをはらんでいます。

この赤字構造を放置すれば、日本はデジタル技術の「利用者」にとどまり続け、自らの手で未来を切り拓く選択肢そのものを失ってしまうかもしれません。

セキュリティリスク:「中の人」がいない脆弱さ

安全保障や情報セキュリティの観点でも、海外依存は大きなリスクとなり得ます。特に問題なのは、重要なシステムやインフラを支える「中の人」、つまり国内で管理・運用を担える人材や体制が育ちにくくなることです。

たとえば、海外クラウドや外資系プラットフォームを使っている場合、システム障害やサイバー攻撃の際に、「日本側だけでは対応が難しい」「契約上の制約や言語の壁で迅速な対応ができない」といった課題が浮上します。

また、外部に技術を委ね続ければ、国内にノウハウが蓄積されず、システムのブラックボックス化が進みやすくなります。これは、予測不能な障害やサイバー攻撃、さらには国際情勢の変化によるサプライチェーンの断絶といったリスクにも直結します。

実際に、ITサービス収支の赤字が拡大している要因として「国外の著作権使用料やクラウドサービス費の増加」が挙げられています。こうした契約や運用の多くが海外ベースで行われていることも、国内のセキュリティ体制に影を落としているのです。

オフショア開発と多重下請け構造の弊害

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コスト削減の手段として選ばれる「オフショア開発」や、国内IT業界特有の「多重下請け構造」。これらのような「外部への過度な依存」の裏には、深刻な弊害も潜んでいます。

品質のバラつきとブラックボックス化

オフショア開発には、「人件費を抑えられる」「人材不足を補える」といった利点があります。しかし一方で、コミュニケーションや品質基準の齟齬が課題となるケースも少なくありません。

たとえば、IPA(情報処理推進機構)のガイドブックでは、海外開発のリスクとして「言語や文化の違いが要件の誤解や意思決定の遅延を招く」「品質保証の仕組みが不十分なまま納品されることがある」といった点が明記されています。

加えて、多重下請け構造が重なると、修正や監督の責任が曖昧になり、誰が何を管理すべきかが見えにくくなります。仕様書や設計書が形式的なものにとどまり、「どうしてそう作ったのか」「どう運用するのか」といった背景情報が社内に残らない状態。これは、いわゆる“ブラックボックス化”です。

結果として、導入時のコストは安く見えても、「仕様変更に弱い」「運用フェーズで国内側が対応できない」といった、目に見えないコストやリスクを抱えることになります。

技術の空洞化が生む“失われた現場”

もう一つの重要な視点は、オフショアや多重下請け構造が「国内の技術や現場力を弱めてしまう」という点です。外部委託が常態化すると、国内では「仕様を渡す」「成果物を受け取る」だけになり、開発や設計、運用、保守まで一貫して経験する人材が育ちにくくなります。

その結果として起こり得るのは、以下のような問題です。

  • 技術判断ができる人材・マネージャーの不足
  • 開発の現場で判断に迷っても相談できる人がいない
  • 海外ベンダーに依存するが、国内に監督する知見がない

さらに、地方自治体や中小企業など、社内に十分なIT基盤を持たない組織では、「どこからDXを進めればよいか」「誰に相談すればいいか」がわからず、プロジェクトが止まってしまう例もあります。

つまり、今のコスト削減のメリットを取ることで、将来にわたる国内の技術力や人材基盤を失うリスクがあるということです。

なぜ今、「内製化・内資化」が求められるのか

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今、国内でデジタル技術やサービスを自ら構築・提供できる体制づくりが強く求められています。それは、単にコストを抑える手段ではなく、経済の持続可能性や国の安全保障を支える「構造的な基盤」としての意味を持つからです。

ここでは、「将来の成長に向けた投資」と「地方から取り組む視点」という2つの観点から、その必要性を考えていきます。

持続可能な成長のために必要な投資

国内で技術やサービスを内製化・内資化することは、将来の成長に向けた「戦略的な投資」として捉えるべきです。

現在、日本の「通信・コンピュータ・情報サービス」分野は、赤字傾向が続いています。海外のデジタルサービスに依存することで、国内で価値を生み、利益を再投資する循環が機能しにくくなっているのが現実です。

この構造に対抗するために、自ら技術を持ち、サービスを開発・運用・改善できる体制を国内で築くことには、以下のようなメリットがあります。

  • 海外サービスへの過度な依存によるコストや収益流出を抑制できる
  • 国内での雇用創出や人材育成、技術の蓄積を促進できる
  • 社会や市場の変化に対して、迅速に対応できる柔軟な体制が整う

こうした観点から、内製化・内資化は「経費削減」の手段ではなく、将来の競争力を維持・強化するための中長期的な投資と位置づけることができます。

「地方から広げる」という視点の可能性

もう一つ注目すべきは、「内製化・内資化は都市部だけの話ではない」という点です。むしろ、地方こそ大きな可能性を秘めています。

現在、IT人材やデジタルリソースは都市部や大企業に集中しがちですが、地方には次のような強みやチャンスがあります。

  • 行政、インフラ、福祉、観光など、地域固有の課題に即した“身の丈”のデジタル化ニーズがある
  • 小規模・ニッチな課題解決から技術が育ち、それを全国に展開できる可能性がある
  • 地域で人材を育てることで、デジタル基盤と地域経済の両方を支える力になる

つまり、「大都市×大企業」だけが主戦場であるという構図を見直し、地方から技術と体制を育てていくことで、日本全体の底力を高めることができるのです。このように、内製化・内資化は一時的な流行ではなく、社会や産業の構造を立て直すための重要なキーワードだといえるでしょう。

まとめ:分散から集約へ、「変化の兆し」をどう育てるか

これまで見てきたように、日本が抱える「デジタル赤字」は単なる経済データの問題ではありません。ITサービスやクラウド、ソフトウェアといった領域で海外への依存が進むことで、国内の技術や運用の力が徐々に損なわれつつあるのが現実です。

こうした状況が続けば、産業構造そのものや国家の自立性にも影響が及ぶ可能性があります。数字には現れにくい「知識や技術の流出」が、じわじわと日本のデジタル競争力を蝕んでいるのです。

一方で、そうした流れに抗うような小さな動きも、各地で生まれはじめています。たとえば、自社でクラウドや業務システムの開発・保守を担う企業が地方に登場したり、自治体や中小企業がITベンダーと連携し、内製化に取り組んだりといった事例です。

これらの取り組みは、「分散されていた技術や知見を、再び国内で育て、集約していく」という流れをつくる第一歩といえるでしょう。たとえ始まりは小さくても、積み重ねた成功体験はやがて、地域や業種を超えて広がる力になります。

かつてのように「必要な技術は外から買えばいい」という考え方が通用しにくくなった今こそ、問われるのは「どんな価値を内に持つか」です。効率よりも持続性を、外注よりも内製を。これからの選択は、より深く、そして長く根を張るものになっていくのかもしれません。

地方で働く人を、アルサーガパートナーズは応援しています

アルサーガパートナーズでは、地方で活躍するIT人材や、地域に根ざして挑戦する企業を全力で応援しています。その一環として、各地に拠点を設け、地域に根ざした働き方の実現と分散型チームの強化を進めています。

現在は、九州を中心に以下の4つの拠点で活動を展開中です。

・福岡オフィス
https://www.arsaga.jp/news/fukuoka-office-establishment-20230926/

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・熊本 平成オフィス
https://www.arsaga.jp/news/press-release-merger-frontier-vision/

・鹿児島オフィス
https://www.arsaga.jp/news/pressrelease-kagoshima-opening-20251106/

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