
DXコラム
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RAGとは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、直訳すれば「検索を拡張した生成」という意味になります。名前のとおり、文章を生成する際に、まず関連する情報を検索して取り出し(Retrieval)、その情報をもとに新たな文章を生成する(Generation)という二段階のプロセスを踏むのが特徴です。
これまでの生成AIでは、訓練時に読み込んだ情報しか使えず、新しい情報やマイナーな知識には弱いという課題がありました。しかしRAGでは、必要な情報をその場で検索して反映させるため、より正確で信頼性のある回答が期待できます。
たとえば、医療や法律などの高度な専門知識を要する分野で、最新のデータをもとに文章を生成することが求められる場面では、RAGが大きな力を発揮するでしょう。
ここで「RAG」と「RAGアーキテクチャ」という似た言葉の違いを整理しておきましょう。
項目 | RAG | RAGアーキテクチャ |
---|---|---|
意味 | 技術の名称、またはそのコンセプト全体 | RAGを実現するための具体的なシステム設計・構成 |
例 | Meta AIが2020年に発表したRAGモデル | 検索エンジン+埋め込みモデル+生成モデルの組み合わせ |
対象 | モデルや手法自体 | システム全体の構造や仕組み |
目的 | 情報検索と生成の統合を実現するための技術 | RAGの仕組みを現実のアプリケーションで機能させるための設計 |
関心の焦点 | 「何ができるか」 | 「どう動かすか」 |
類似のイメージ | BERTやGPTなどの特定のモデル名・手法 | WebアプリやAIシステムにおけるバックエンド設計 |
この違いを押さえておくと、RAGに関する技術資料や導入記事を読んだ際に理解が深まります。
「検索拡張生成」とは、情報検索と生成を組み合わせたアプローチです。従来の生成モデルでは、内部に保持された知識の範囲でしか応答できなかったため、情報が古かったり、曖昧だったりすることも珍しくありませんでした。
この課題を解決する手法の一つが、RAGです。RAGは、検索拡張生成というアプローチを代表する技術で、生成の直前に最新のデータベースやドキュメントを検索し、その検索結果を参照しながら文章を組み立てます。この「検索」と「生成」の融合によって、文脈に合った、かつ実用的な回答ができるようになるのです。
特に、変化の激しい分野や、ニッチなトピックに対する情報提供では、この方法が非常に有効です。
AIが驚くほど自然な文章を生成するようになった今でも、「正確な情報を含んだ回答ができるか?」という点ではまだ課題が残っています。たとえば、ある出来事についてAIに質問しても、情報が古かったり、事実と異なる内容が含まれていたりするケースは珍しくありません。
これは、一般的な生成AIが学習時点のデータしか参照できないためです。つまり、新しい情報やリアルタイムな変化に対応するのが苦手だったのです。
RAGはこの問題に対し、リアルタイムの情報検索を加えることで解決策を示しました。質問に答える前に、まず関連する文書を検索して取得し、それをもとに回答を生成するため、常に最新で信頼性の高い情報を提供できる可能性が高くなります。
このように、「知識の鮮度」や「根拠の明示」などの生成AIが直面していた課題に対して、RAGは非常に実践的な解決手段を提供しています。
RAGアーキテクチャは、すでにさまざまな実用分野で活用が進みつつあります。特に、情報の正確性が問われる医療、法律、教育、金融などの業界では、その信頼性の高さが評価されています。
たとえば、ある医療支援システムでは、医師が入力した症状に基づいて、関連する医療文献を検索し、信頼できる根拠に基づいた診断補助情報を提示する仕組みが導入されています。また、社内ナレッジ検索を強化する目的で、RAGを使ったチャットボットが導入されるケースも増えてきました。
こうした例を見ると、RAGは単なる研究段階の技術ではなく、すでに「使える技術」として社会に浸透し始めていることがわかります。
RAGアーキテクチャの中核は、「検索」と「生成」の2つのプロセスが密接に連携している点にあります。では実際にどのような流れで情報が処理されるのでしょうか?
まず、ユーザーの質問や入力文が、検索エンジンの役割を担う部分に送られます。ここでは、膨大なドキュメントデータベースや外部情報源の中から、関連性の高い文書を選び出します。この検索は、単にキーワードに一致する文を探すだけでなく、意味的な類似性をもとに判断されるため、文脈に合った内容が選ばれやすくなっています。
次に、この検索結果をもとに、生成モデルが回答を組み立てます。ここが、従来のAIと大きく異なる部分です。単独で文章を作るのではなく、選ばれた文書に含まれる情報を参照しながら、自然な言葉で再構築するイメージです。
この2ステップにより、事実に基づいた自然な表現が実現できる、それがRAGの強みです。
RAGを構成するために使われる技術としては、主に以下のような要素が挙げられます。
検索エンジン:
ElasticsearchやFAISSなどのベクトル検索ライブラリが用いられます。テキストを意味的にベクトル化し、類似度にもとづいて文書を検索する仕組みです。
埋め込みモデル:
質問や文書をベクトル化するために、BERTやSentence-BERTのようなエンコーダーが使われます。
生成モデル:
OpenAIのGPTシリーズやMetaのBARTなど、自然言語生成に特化したモデルが文章を出力する役割を担います。
それぞれの技術が互いに補完し合い、検索と生成の橋渡しをしています。とくに埋め込みモデルの精度が上がるほど、文脈に沿った適切な検索結果を得やすくなるため、全体のパフォーマンス向上にもつながります。
RAGアーキテクチャが評価されている最大の理由は、何といっても「生成内容の精度」と「柔軟性」が大きく向上する点です。検索によって得られる実際の文書を活用するため、モデルが持っていない知識や、トレーニング時点以降の最新情報にも対応できるようになります。
また、ある特定の分野やドメインに限定した情報を使いたい場合にも、柔軟に対応できるのが特徴です。たとえば、特定の企業の社内文書だけを対象とした検索を組み込むことで、その企業専用のQAシステムやヘルプデスクなども構築できます。
さらに、根拠となる情報ソースを明示できる点も見逃せません。「どこからこの回答が導かれたのか」を示せるため、ユーザー側の安心感や納得感も大きくなります。
とはいえ、すべての面で万能というわけではありません。RAGにもいくつかの課題が存在します。
まず一つは、検索と生成という2つのステップを踏むため、従来の生成AIよりも計算コストが高くなること。検索対象のデータベースが大規模になればなるほど、検索時間も増え、処理の遅延が発生するリスクがあります。
また、検索結果の品質に強く依存するという点も重要です。もし関連性の低い文書が選ばれてしまえば、いくら生成モデルが優秀でも、誤った情報を組み立ててしまう可能性があります。
このため、検索の精度を高める工夫や、信頼性のある文書群をどう選ぶかといった運用面での配慮も欠かせません。
RAGアーキテクチャは、生成AIの限界を克服する有望な技術として、今後ますます活用の幅を広げていくと考えられます。特に、専門的な知識が求められる業務や、正確さが何よりも重要な場面では、その実力が一層発揮されることでしょう。
また、検索対象の文書を自由に設定できるという柔軟性から、企業内の情報資産を活用した専用AIの開発にも適しています。カスタマーサポート、自動応答、社内教育、法務サポートなど、応用可能な分野は非常に多岐にわたります。
一方で、検索精度の確保や運用コストの最適化といった課題もあります。技術的な成熟とともに、こうした問題をどう解消していくかが、今後の普及スピードを左右するカギとなるかもしれません。
AIが自律的に文章を生み出す時代から、信頼性と文脈の理解をともに追求する時代へ。RAGアーキテクチャは、その転換点を象徴する存在と言えるでしょう。
(文=広報室 白石)