【RAGとファインチューニングの違いを徹底解説】最適なLLM構築戦略とは?

RAGとファインチューニング

近年、AIの活用が進み、特に大規模言語モデル(LLM)の実用化と性能向上が加速しています。人工知能を業務やサービスで活用するうえで、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」と「ファインチューニング」は、LLMの出力結果を特定の領域や用途に最適化するための代表的な手法です。

RAGは、LLMが外部のデータセットやテキストにアクセスしながら生成を行う仕組みで、最新情報の反映や管理のしやすさという点で優れた特徴を発揮します。一方、ファインチューニングは、既存のLLMを追加訓練することで、特定のニーズに基づいた出力を行えるようパラメータを調整する手法です。

これらはどちらもLLM開発において重要な技術ですが、使用目的や求める正確さ、運用コスト、リスク、将来的な拡張性などの点で、どちらを選択すべきかは異なります。本記事では、RAGとファインチューニングの違いを全体像から整理し、どのようなケースでどちらを選ぶべきかを具体的に解説していきます。

RAGとは何かをわかりやすく解説

RAGとファインチューニング

RAGの仕組みと特徴

RAGは、LLMが外部のデータベースや検索エンジン、特にベクターデータベースと連携し、埋め込み(Embedding)技術を用いて必要な情報にアクセスしながら文章を生成する手法です。テキストの意味を数値化し、内容が近いデータを検索する(ベクトル検索)ことで、表記揺れに強く、精度の高い回答生成を実現します。

従来のLLMは、事前訓練されたデータセットに基づいて回答を生成しますが、新しい情報を学習し直すにはファインチューニングが必要でした。これに対し、RAGはLLMが外部情報を実行時に取得するため、過去の学習内容に依存せず、最新情報を活用できる点が大きな特徴です。

RAGの基本的なプロセスは以下のようになります。 

  • ユーザーの入力を解析 → 質問や指示の意図を理解し、必要な情報の種類を整理
  • 関連情報を検索 → 外部データベースや検索エンジン、ベクターデータベースを活用し、埋め込み技術を用いて関連性の高い情報を抽出
  • 情報を取得し、LLMが処理 → 取得した情報とLLM自体の言語生成能力を統合し、最適な回答を生成
  • 回答を出力 → 十分な根拠を持つ情報をもとに、質の高い応答を提供

この手法により、事前学習されていない最新の情報をLLMの出力に反映できるため、モデルのパラメータを直接調整することなく、時間が経っても情報が古くならないというメリットがあります。一方で、外部データセットの管理や参照先情報の信頼性といった課題やリスクもあるため、用途に応じた検討が必要です。

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◎RAGのメリット

  • 最新情報に対応可能:モデルを再学習せずに、常に最新のデータを取り入れられる。正確な情報提供を実現しやすく、情報の鮮度維持にとても役立つ
  • 大規模なデータを活用可能:外部データベースを使うことで、LLMがすべての情報を記憶する必要がなく、膨大なデータセットにもアクセスできる  
  • コスト効率が良い:ファインチューニングのような追加学習が不要で、学習や開発にかかるコストを抑えられる
  • 透明性と説明可能性:情報の根拠となる外部テキストやデータを示すことが可能で、回答内容の評価や確認がしやすい
  • カスタマイズ性:外部データベースを用途別に管理・特化させることで、LLMの活用領域を拡張できる

△RAGのデメリット

  • 検索の精度に依存:検索システムが適切な情報を取得できないと、回答の精度が低下する。また、検索アルゴリズムだけでなく、データベースの品質や設定も重要となる
  • 処理時間が長くなる:リアルタイムで検索を行うため、ネットワーク遅延やデータベースの負荷によって応答速度が遅くなるリスクがある
  • 検索元の信頼性の問題:取得した情報が誤っていると、生成される内容も不正確になる可能性があり、運用面での課題となる 
  • プロンプトインジェクションへの脆弱性:外部データを参照するからこそ、悪意のあるプロンプトが含まれていた場合の対策や検討が必要になる

RAGは、最新情報を必要とする分野(ニュース、法律、医療など)で特に有効ですが、検索精度や処理時間、検索元の信頼性、プロンプトインジェクションといったリスクを踏まえ、LLMの運用設計も含めた検討が欠かせません。

ファインチューニングとは何かをわかりやすく解説

RAGとファインチューニング

ファインチューニングの仕組みと特徴

ファインチューニングとは、既存のLLMに対して追加のデータセットを用いて再学習させ、特定のタスクや用途に最適化する手法です。モデルのパラメータを直接調整することで、出力の質や性能向上を実現します。

通常、LLMは一般的な知識を持つ汎用モデルとして訓練されています。しかし、特定の業界向けの専門知識を持たせたり、特定のブランドのトーンに合わせたりする際には、追加データによるカスタマイズが不可欠です。現場の業務内容や顧客ニーズに基づいた回答を行うためには、このプロセスは重要なポイントとなります。

ファインチューニングの基本的なプロセスは以下のようになります。

  • 追加データの準備 → 特定の業界やタスクに関連する高品質なデータを整理・確認
  • 事前学習済みモデルを選択 → OpenAIのGPT、GoogleのGeminiなどの基礎モデルを使用
  • モデルの再学習 → 追加データを用いてトレーニングを実行
  • チューニング後のモデルを運用 → 特定用途に特化したモデルとして管理・活用

この方法により、カスタマイズされたAIが、特定の業務に適した一貫性のある回答を行うことが可能になります。

◎ファインチューニングのメリット

  • 特定の用途に最適化可能:業界特有の専門知識や独自の回答スタイルを反映でき、精度の高い応答を実現
  • 検索不要で即時応答:RAGのような外部検索を行わないため、パフォーマンスが高く、高速な応答が可能
  • 高い一貫性:一度学習させると、常に同じ品質の応答が得られ、運用面での安定性が高い

△ファインチューニングのデメリット

  • データの準備が大変:高品質なトレーニングデータを用意する必要があり、作業量や初期投資が増える
  • モデルの更新が難しい:新しい情報を反映するには、再びファインチューニングを行う必要がある
  • 計算コストが高い:学習にはGPUなどの計算リソースが必要で、コストやリスクを考慮する必要がある

ファインチューニングは、一度学習すれば即時応答が可能で安定した結果を得られるため、カスタマーサポートや特定分野の専門AIとして効果的です。しかし、新しい情報を頻繁に更新する必要がある状況では、その都度ファインチューニングを行う必要があるため、用途によってはRAGの方が適している場合もあり、事前の検討が重要です。

RAGとファインチューニングの違い

RAGとファインチューニング

RAGとファインチューニングは、LLMの活用方法という点でそれぞれ異なる特性を持っており、適した用途や領域も異なります。ここでは、両者の主な違いを運用やコストといった点から整理して比較していきます。

1.データ更新のしやすさ

  • RAG:◎(リアルタイムで更新可能)
    RAGは外部のデータベースにアクセスして情報を取得するため、データベースを更新すればAIの知識も最新の状態を維持できます。たとえば、法律の変更や最新ニュースなど、頻繁に情報が変わる分野では、LLMが最新情報を参照できるため、正確な回答を実現しやすい点が強みです。
  • ファインチューニング:△(更新に時間とコストがかかる)
    一度ファインチューニングしたモデルは、その後のデータ変更を自動的に反映できません。新しい情報を反映するためには、再学習(リトレーニング)を実行する必要があり、作業や投資の面での課題があります。

2.計算コストと学習時間

  • RAG:〇(学習コストは低いが、推論コストは高い)
    事前学習は不要なので、導入時の開発コストは比較的低く抑えられます。一方で、リアルタイムで検索を行う関係上、推論時のパフォーマンスや応答時間に影響が出るリスクがあります。
  • ファインチューニング:△(学習コストが高いが、推論時のトークン消費を抑えられる可能性がある)
    トレーニングにはGPUなどの計算リソースが必要となり、初期の学習コストは高くなります。しかし、一度学習が完了すれば、推論時の処理は迅速で、運用コストを抑えやすいという特徴があります。

3.応用例の違い

<RAGの主な用途>

  • 社内FAQやナレッジを検索して回答するAI(情報参照型サポート)
  • 法律・医療・金融などの最新情報を扱うAI
  • 企業向けのドキュメント検索AI(業務効率化に貢献)

<ファインチューニングの主な用途>

  • カスタマーサポートチャットボット(定型業務向け)
  • 特定業界向けの専門知識を持つAI
  • 感情分析・マーケティングデータ分析など、特化した用途

以下のように、どちらの手法が適しているかは、用途や目的、求める性能に応じて異なります。

目的 RAG ファインチューニング
最新ニュースを反映する ×
定型業務の自動化
特定の業界向けに最適化
短期間で導入する
初期費用を抑える
運用コストを抑える

導入時に迷いやすいポイント

RAGとファインチューニングは、それぞれの違いを理解していても、実際の導入現場では「どちらが最適か」の判断は容易ではありません。

たとえば、「最新情報を扱いたい(RAG向き)」一方で、「応答速度や運用コストも抑えたい」といった、相反する要件が混在することが多いためです。RAGは検索エンジンや外部データベースを活用して情報を取得する仕組みのため、検索精度や設計によって回答品質が大きく左右される点も考慮が必要です。加えて、検索プロセスを挟むことによる応答速度への影響も懸念されます。

そのような状況では、最初から手法を一つに絞り込む必要はありません。まずはRAGから着手し、検索エンジンの精度や情報取得の安定性、利用頻度を確認し、運用が安定してからファインチューニングを検討する段階的な進め方も有効です。

技術的な性能だけでなく、検索エンジンやデータの更新作業を誰が担当するのか、運用体制や管理のしやすさまで含めて検討することで、導入後の負担を抑えた選択につながります。

用途別に見る選択基準

RAGとファインチューニング

RAGとファインチューニングのどちらを選ぶべきかは、目的や要件、求める性能や運用方針、そしてLLMをどのように活用したいかによって異なります。ここでは、用途別に最適な選択肢を整理し、具体的な点から検討します。

① 最新情報を扱うなら「RAG」

RAGは外部データにアクセスしながら応答を生成するため、情報が頻繁に変わる分野では特に効果的です。

例)

  • ニュース記事の要約AI(常に最新の出来事を正確に反映する必要がある)
  • 法律・金融・医療の情報検索AI(法改正や新しい研究結果を迅速に反映したい)
  • FAQシステム(企業の製品マニュアルや社内文書をリアルタイムで検索)

→ こうしたケースでは、モデル自体を再学習する必要があるファインチューニングではなく、RAGを選択することで管理や更新の負担を抑えられます。

② 一貫した回答やカスタムモデルが必要なら「ファインチューニング」

ファインチューニングは、特定の業界や企業向けにカスタマイズしたモデルを構築するのに適しています。

例)

  • カスタマーサポートの自動応答(特定の言葉遣いやブランドのトーンを統一したい)
  • 専門業界向けのAIアシスタント(医療、法律、工学などの専門用語に特化)
  • マーケティング分析AI(自社データセットに基づいた分析を行う)

→ 一度学習させることで、安定した質の応答を継続的に実行できる点がファインチューニングの強みです。

③ 初期コストと運用コストを考える

コスト面での選択基準を全体で見ると、以下のような違いがあります。

項目 RAG ファインチューニング
初期導入コスト

低い
(検索システムを構築するだけ)

高い
(再学習のための計算リソースが必要)
運用コスト 高い
(検索による処理負荷が発生)
低い
(推論のみなので軽量)
データ更新コスト 低い
(データベースを更新するだけ)
高い
(新データを反映するには再学習が必要)

短期間で導入するならRAG、長期的に運用コストを抑えたいならファインチューニングが適しています。

④ 応答速度を重視するなら「ファインチューニング」

リアルタイムでの応答速度が重要な状況では、検索処理を伴うRAGはパフォーマンス面で不利になる場合があります。

  • RAG → 毎回検索を行うため、応答速度がやや遅くなる可能性
  • ファインチューニング → 推論のみで回答を生成でき、処理が高速

→ 即時応答が必要なチャットボットなどではファインチューニングが適しています。

⑤ 柔軟性と汎用性を重視するなら「RAG」

  • RAGはデータベースを変更・拡張するだけで、新しい分野や複数の用途に対応可能です。
  • ファインチューニングは特定用途に最適化されているため、広範なタスクには向いていません。

たとえば、企業向けの内部ドキュメント検索AIのように、後から追加のデータや異なる情報を扱うケースでは、RAGの方が柔軟に対応できます。

RAGとファインチューニングの総括

RAGとファインチューニング

RAGとファインチューニングは、それぞれ異なる特性と領域を持ち、用途によって適した場面が異なります。本記事で紹介した全体像を踏まえ、どちらを選ぶべきかを整理し、検討の参考として簡単にまとめます。

RAGが適しているケース

  • 最新情報を反映したい(ニュース、法律、金融、医療など、更新頻度が高い分野)
  • データの更新頻度が高い(企業のFAQ、社内ドキュメント検索など、膨大な情報を扱う場合)
  • 初期導入コストを抑えたい(学習なしで利用でき、投資を抑えやすい)
  • 汎用的な用途で活用したい(さまざまなデータソースに柔軟に対応可能)

▼ RAGの活用例

  • 最新ニュースを反映するAI
  • 法律や医療の情報検索システム
  • 企業向けのナレッジ検索アシスタント(業務効率化に貢献)

ファインチューニングが適しているケース

  • 特定の業界や企業向けに最適化したい(専門知識が必要なAIに特化)
  • 応答速度を重視したい(検索を行わないため高性能な高速処理が可能)
  • 一貫した回答品質を求める(特定のトーンやスタイルに統一し、質を安定させたい)
  • 長期的な運用コストを抑えたい(学習済みモデルは推論のみでパフォーマンスが安定)

▼ファインチューニングの活用例

  • 企業向けカスタマーサポートAI
  • 医療・法律・技術分野の専門アシスタント
  • ブランドのトーンに合わせたマーケティングAI

RAGとファインチューニングの組み合わせも可能

実際のAI活用では、RAGとファインチューニングを組み合わせて実装することで、それぞれの強みを発揮し、より効果的なシステムを実現するケースも多く見られます。単一のアプローチに限定せず、目的や業務領域に基づいて柔軟に検討する点が重要です。

たとえば、以下のようなハイブリッド型の使い方があります。

  • RAGで最新情報にアクセスし、ファインチューニング済みのモデルで回答を生成する
    → 例:医療AIが最新の研究論文データセットを検索し、その内容を専門医向けの用語やフォーマットに調整して要約する
  • ファインチューニングしたモデルをベースにしつつ、不足する情報をRAGで補う
    → 例:特定の企業向けに特化して開発されたFAQ AIが、新規の質問に対してRAGで情報を取得し、顧客対応の質を向上させる

このように、RAGとファインチューニングを統合したプロセスを採用することで、情報の鮮度を保ちながら応答の一貫性を確保し、パフォーマンスと管理のバランスといった複数の課題を同時に解決することが可能になります。

目的に応じて最適な手法を選択しよう

  • リアルタイムで更新や拡張が必要ならRAG
  • 特定の業務やドメインに最適化したいならファインチューニング
  • 柔軟性と安定性の両立を重視する場合は、ハイブリッドな活用もアリ

AIの進化に伴い、RAGやファインチューニングを活用した人工知能システムの導入は、さまざまな組織やアプリケーションで進んでいます。どちらの手法も万能ではないため、コスト、更新頻度、運用状況などを全体で評価し、自社にとって最適な選択を行うことが重要です。

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(文=広報室 宮崎、編集=尹)