DXコラム
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SNSの投稿、メールのやりとり、商品レビュー、さらには動画や音声ファイル。日々の生活で私たちが生み出すこれらの情報は、実は「非構造化データ」と呼ばれるものに分類されます。
ビジネスの現場でも、この非構造化データの重要性は急速に高まっています。なぜなら、ユーザーの声や市場のトレンド、あるいは製品へのフィードバックなど、貴重なヒントがこの中に数多く含まれているからです。
本記事では、「非構造化データとは何か」という基本から、実際の活用方法、さらには分析時の課題や対策までをわかりやすく解説します。専門的な知識がなくても読み進められるよう配慮しているので、これからデータ活用を考えている方にもおすすめの内容です。
目次

「構造化データ」との違いを押さえると、非構造化データの理解が深まります。構造化データとは、表やリストなど、あらかじめ決まった形式で整理されたデータを指します。
例えば、エクセルで管理された売上データやユーザー情報などがこれに当たります。行と列で区切られ、検索や分析がしやすいのが特徴です。
一方で、非構造化データは明確な形式を持たず、決まった枠組みに当てはまらないデータです。自然言語で書かれた文章や画像、動画、音声、SNSの投稿などが該当します。内容が多様で自由度が高いため、情報としては非常に豊かですが、整理や分析が難しいという側面もあります。
つまり、構造化データが「整理されたデータ」であるとすれば、非構造化データは「生のままの情報」に近いものです。扱いに工夫は必要ですが、その分だけ新しい発見につながる可能性が広がっています。

非構造化データといっても、その中身は多岐にわたります。ここでは、代表的な種類をいくつか紹介します。
・テキストデータ
メールやチャット、口コミ、ブログ記事、報告書など、言葉で記録された情報全般が含まれます。
・画像や動画
写真、図面、YouTube動画、監視カメラの映像なども非構造化データに含まれます。画像認識技術によって内容の抽出が可能です。
・音声ファイル
コールセンターの通話記録やボイスメモなど。文字起こし(音声認識)をすることで、テキストとして扱うこともできます。
・SNSやウェブの投稿
TwitterやInstagram、ブログ、ニュースコメントなどは、個人の感情や意見が反映されやすく、ユーザー理解に役立つ情報源となります。
このように、非構造化データは私たちが日常的に接している情報の多くを含んでいます。デジタル化が進む現代においては、むしろ「構造化されていない」情報の方が圧倒的に多いといえるでしょう。
ここ数年でビッグデータという言葉を耳にする機会が増えた方も多いのではないでしょうか。スマートフォンの普及やSNSの活発化、センサー技術の進化によって、個人や企業を問わず膨大な量の情報が日々生み出されています。
このような膨大なデータの多くを占めているのが、構造化されていない非構造化データです。たとえば、1日で投稿されるSNSの写真やコメント、世界中で配信される動画や音声は表にまとめることが難しい反面、私たちの行動や嗜好、意識の変化を如実に反映しています。
つまり、ビッグデータの中核を成すのは、こうした自由で多様な非構造化データです。これをいかに活用できるかが、企業の競争力を左右します。
近年の調査やレポートでは、新たに生み出されるデータの大半が非構造化データとして蓄積されていることが示されています。企業が日常的に扱う情報も、売上表のように整った形式のものより、文章や音声、画像といった整理されていないデータが増えています。
営業日報の記述や会議の録音ファイル、レビューサイトに寄せられた顧客の声などはその代表例です。これらを十分に活用できなければ、意思決定や改善につながる示唆を取り逃す可能性があります。
非構造化データが注目される最大の理由は、その中にビジネスのヒントが隠されていることです。商品のレビューを分析すれば、ユーザーがどこに満足し、どこに不満を抱いているのかを把握できます。
SNSの投稿を読み解けば、話題の兆しをいち早く察知し、新しい企画や改善につなげることも可能です。従来は見過ごされがちだったユーザーの声や行動履歴を可視化することで、製品開発やサービス改善に活かせるようになりました。
非構造化データをどう活用するかは、今後の企業戦略を左右する大きな要素となっていくでしょう。
データ基盤は、データを保存するだけの仕組みではありません。情報の収集や加工、分析に活用できるだけでなく、経営や業務上の意思決定を支える重要な役割も担っています。ここでは、代表的な3つの機能について紹介します。

非構造化データの代表的な活用分野のひとつがマーケティングです。SNSの投稿や口コミサイトのレビュー、アンケートの自由記述欄を分析すれば、ユーザーが何を求めているのかを把握できます。
定量的なアンケート結果だけでは見えにくい顧客の感情や背景までを読み取れる点が特徴です。自然言語処理(NLP)やテキストマイニングを活用すれば、膨大なレビューをすべて確認する必要はありません。
頻出する言葉の傾向から全体像をつかむことができます。レビューの中で満足や安心といった表現が多ければ強みの把握につながります。一方で、価格への不満や対応の遅さに関する記述が目立てば、改善の方向性を示す材料となります。こうした分析はすでに実用化されており、商品開発やサービス改善の基盤になっています。
医療現場でも非構造化データの活用は広がっています。カルテや診断記録、医師の所見メモなどはすべて非構造化データです。分析によって患者ごとの傾向を把握したり、類似症例を早期に見つけたりすることが可能となっています。
さらに、こうしたデータを集約して解析することで、治療方針の検討や予防医療への応用につながると考えられます。従来は紙や断片的な記録にとどまっていた情報も、体系的に整理できるようになり、診療の質向上への貢献が期待されています。今後は医療におけるデータ活用が不可欠な基盤となるでしょう。
製造業においても非構造化データの活用は進展しています。センサーによる映像記録や音声ログは、機械の異常検知や工程の最適化に利用される代表的な例です。
映像解析技術を組み合わせれば、人間の目では気づきにくいパターンや変化を捉えることが可能です。その結果、生産性の向上や安全性の確保につながり、現場全体の効率改善に役立っています。こうした取り組みは、品質管理を支える重要な要素になると考えられます。
非構造化データの分析で最初に直面するのは整理の難しさです。構造化データなら売上やユーザー名、日付といった項目があらかじめ決まっています。一方で、非構造化データは自由形式であり、何を重要視するか、どの部分をどう読み取るかといった判断が欠かせません。
文章データでは誤字脱字や文体のばらつき、絵文字やスラングの混入が障害となります。さらに画像や動画、音声は内容をどう言語化するかが課題であり、こうした前処理は分析を進めるうえで大きな壁となっています。

文章データの前処理には、多くの時間と労力が必要です。誤字脱字や文体のばらつき、さらに絵文字やスラングの混入によって、分析が複雑になることもあります。こうした課題に対応する技術のひとつが自然言語処理(NLP)とされています。
NLPを導入することで、感情分析やキーワード抽出を自動化できるようになりました。膨大な文章を逐一確認する必要はなく、全体の傾向を効率的に把握できる点が特徴です。肯定的な意見と否定的な意見を分類したり、頻出する語を抽出したりすることで、データの背後にあるパターンを明らかにできます。
このように、NLPは非構造化データを扱う際の有効な手段であり、従来は困難だった分析を実用的なレベルに引き上げました。今後も技術の進化に伴い、適用範囲はさらに広がると考えられます。
非構造化データの分析には、多くの人的リソースと専門知識が求められる状況が続いています。そのため、この負担を軽減する手段としてAIの導入が注目されています。
AIを活用すれば、文章の要約作成やチャットログの解析を自動で行うことが可能です。AIは膨大なデータの中から傾向やパターンを抽出することを得意としており、従来は見過ごされていた内容に気づかせることにもつながります。
もちろん分析をすべて任せられるわけではありませんが、補助的に取り入れることで業務の効率化や精度向上を後押しできます。AIは非構造化データ活用における加速装置と位置づけられ、今後もその役割は拡大していくと考えられます。
非構造化データの活用が進むにつれ、求められるスキルや人材像も変化しています。従来のように数字を扱うだけの分析力ではなく、文章のニュアンスを読み取る力や、画像や音声から意味を引き出す感性が重視されるようになりました。自然言語処理や画像認識、AIを用いた分析技術を理解し、実務に応用できる人材の需要は今後さらに高まると考えられます。
同時に、こうした技術をビジネスの課題と結びつけられる視点も欠かせません。単に技術を扱えるだけでなく、どのように活かすかを設計できる人が、今後はより重視されるでしょう。

近年急速に進化している生成AIとの相性にも注目が集まっています。生成AIは文章や画像、音声といった情報の生成や要約を得意とし、チャットログから自動で報告書を作成したり、動画の内容を短い文章にまとめたりする機能はすでに実用段階に入っています。
このような技術と既存のデータを組み合わせることで、人に近い感覚での分析が可能になりつつあります。今後はデータを集めるだけではなく、自動で分析を行い、示唆を導き出す流れが一般化していくはずです。
DXが注目される中で、データ活用は欠かせない要素となっています。顧客対応の改善や製品開発のヒント、社員の声を取り入れた業務改善など、あらゆる場面で成果を支える基礎となります。これを適切に活かせる企業は、社内外の情報を資産に変え、柔軟で強い組織へと進化していけるでしょう。
一方で、データ活用に取り組まなければ、顧客の声や市場の変化を見落とし、競争力の低下につながる可能性があります。活用の有無が将来の成長に直結するため、まずは身近なデータを見直すことが現実的で効果的な一歩となります。
非構造化データは、ユーザー理解や業務改善に直結する重要な情報源です。文章や画像、音声などを分析に取り入れることで、これまで見えなかった気づきを得られます。
一方で、整理や前処理の難しさといった課題も残されています。ただし、自然言語処理やAI技術の発展により、そのハードルは着実に下がりつつあります。
今後は生成AIとの組み合わせによって、活用の幅がさらに広がるでしょう。まずは身近なデータを見直し、小さな取り組みから始めることが、企業にとって大きな一歩につながります。
業務効率化だけでなく、新しい価値の創出につながる点も見逃せません。ユーザー体験の向上や新しい事業機会の発見など、事業全体を変革する可能性があります。さらに、現場から経営レベルまで情報がつながることで、意思決定の質も高まります。
つまり、非構造化データをどのように扱うかが、今後の競争力を左右する要素となります。これを早期に取り入れられるかどうかが、将来の成長力を大きく分ける鍵になるでしょう。
(文=広報室 佐々木)