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この連載では、筆者がこれまで外資系コンサルティングファーム等でデータサイエンティストとして働いてきた経験を踏まえ、価値のあるデータサイエンティストについて考えを深め、読者の皆さんと共有していきたいと思います。
目次
最近、「データドリブン経営」や「データ活用」が叫ばれ、データサイエンティストという職業が華々しく注目されています。しかし、その実態はどうでしょうか?「データサイエンティストを雇ったけど、思ったような結果が出ない……」と頭を抱えている経営者や事業責任者の声をよく耳にします。実は、多くの企業が理想とする「真のデータサイエンティスト」とは程遠い、“問題だらけのデータサイエンティスト”が多く存在しているのが実態です。
この記事では、実際のビジネスの現場でよく見られる問題のあるデータサイエンティストの特徴を、具体的なエピソードとともに紹介し、問題の本質に迫ります。
「このデータはランダムフォレスト(※1)でいいですね」「このデータなら回帰分析(※2)で十分です」と、自分が慣れ親しんだ手法ばかりに頼る分析者がいます。筆者の過去の経験でも、データの特徴を踏まえると、どう考えても間違った手法を用いているデータサイエンティストが少なくありませんでした。なぜその手法を選択したのかを聞いても、得意だから、という回答や、手法の検討すらしていないことが大半でした。データ分析は手段であり、目的ではありません。データサイエンティストに求められるのは、課題の本質を捉え、最適な分析手法を柔軟に選択する能力なのです。
専門用語の説明なしに「バイアスとバリアンスのトレードオフ(※3)から最適モデルを選択すると、このモデルが最適で、交差検証のROC-AUC(※4)も問題ないです。」と難解な報告をされても、多くのビジネス担当者は混乱するだけです。それまでお客様である担当者と活発な議論をしていたにもかかわらず、このような難解な説明を聞いた途端、担当者からは意見が出なくなってしまった場面に遭遇することが何度もありました。
ビジネス担当者が求めているのは、専門用語ではなく、「具体的にどの問題が解決され、事業にどんな利益がもたらされるか」です。データサイエンティストは、分析結果をビジネスに翻訳して伝える力が求められます。
最も深刻なのが、「回帰分析と相関分析の違いを説明できない」「仮説検定の前提条件を理解していない」など、基礎知識が欠けているデータサイエンティストです。データサイエンスは、単に計算を終えれば完了というものではありません。しかし、残念ながらそのように捉えているデータサイエンティストが一定数存在するのが現実です。実際に、お客様に提出する前の資料ですが、誤った解釈に基づく結果報告案を何度も目にしました。統計的検証やなぜその分析結果が出たのかを考えるプロセスが抜けているようでした。
データサイエンティストには、統計やモデルの基礎的な理解が必須です。これが欠けると分析の信頼性そのものが揺らぎ、組織に重大なリスクをもたらしかねません。
本記事では、データサイエンスの現場で散見される問題のあるデータサイエンティストの特徴を解説しました。得意な手法に固執する「ワンパターン分析者」、専門用語で混乱させる「宇宙語話者」、そして大前提となる基礎知識が不足している「見習い未満」。これらの存在は、企業のデータ活用を阻害し、誤った意思決定を招きかねません。
ビジネスにて求められる真のデータサイエンティストは、高度な分析スキルに加え、課題の本質を見抜く洞察力、最適な手法の選択力、そして分析結果をビジネスに翻訳し、具体的な行動に繋げるコミュニケーション能力を持つ人材です。
企業は採用・育成、もしくは外部人材への業務委託する際には、これらの点を重視する必要があります。表面的なスキルだけでなく、ビジネス貢献への意識や学習意欲を見極め、継続的な成長機会を提供することが、データドリブン経営成功の鍵となるでしょう。
【次回予告】
次回は、「本物のデータサイエンティスト」になるためのマインドセット・知識・経験を具体的に紹介します。データ活用を成功に導くために欠かせないポイントを、実践的かつ分かりやすくお伝えします。
あなたの会社のデータ活用を飛躍的に進化させるヒントが満載ですので、ぜひお楽しみに!
それでは、次回をお見逃しなく!
【用語補足】
※1.ランダムフォレスト:複数の決定木を組み合わせて予測精度を高める機械学習アルゴリズム。各決定木は異なるデータのサブセットを使い、最終的な予測は多数決や平均で決定。これにより、過学習を防ぎ、安定した予測が可能
※2.回帰分析:データ間の関係性を明らかにする統計手法。特に、目的変数(予測したい値)と説明変数(目的変数に影響を与える要因)の関係を分析。単回帰分析では、目的変数 = 回帰係数 × 説明変数 + 切片 + 誤差項の式で表す
※3.バイアスとバリアンス:バイアスは、モデルが単純すぎてデータの本質を捉えきれない誤差。バリアンスは、モデルが複雑すぎて訓練データに過剰適合する誤差。バイアスとバリアンスのトレードオフが重要
※4.ROC-AUC:分類モデルの性能を評価する指標。ROC曲線は、真陽性率(TPR)と偽陽性率(FPR)の関係を示すグラフ。AUCは、このROC曲線の下の面積を表し、モデルの予測精度を数値化する
<執筆・監修>
アルサーガパートナーズ株式会社 技術ブログ制作チーム
RK
データサイエンティスト。
前職含めデータサイエンス歴14年。
電力、製造小売、航空、通信、医療、製薬、食品製造、飲料メーカーなど、幅広い業界で分析業務・モデル作成を担当。