社員インタビュー
経済産業省・中小企業庁とベンチャーがワンチームで挑むシステム刷新。「中小企業119」開発座談会
Arsagaブログ
経済産業省では、文書や手続きを単に電子化するだけではなく、ITを徹底的に活用することで、手続きを簡単・便利にし、蓄積されたデータを政策立案に役立て、国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上させることを目指して活動しています。
中でも、中小企業庁が経営課題を抱える中小企業・小規模事業者に対して専門家を派遣し、その解決を支援する専門家派遣事業において運営する「中小企業119 https://chusho119.go.jp/」は、従来のシステム「ミラサポ」と比べ、スマートフォンアプリによるGPS活用、郵送による紙手続きの電子化、およびオンラインシステムsAI Searchを活用したFAQページの充実等の取り組みにより、業務を抜本的に改革しました。
今回、このリニューアルプロジェクトおよびその仕組みを支えるシステム刷新を担当したメンバーが会し、システムリニューアルを振り返る座談会を実施しました。
(写真左から:
経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室 佐々木 輝幸 氏
中小企業庁 経営支援部 経営支援課 副島 真介 氏
株式会社サイシード AI事業部 小林 氏
アルサーガパートナーズ株式会社 執行役員 小澤 凌太
「中小企業119」概要
公式サイト | https://chusho119.go.jp/ |
導入サービス | ①専門家派遣事業における、専門家向けLINEアプリの開発 ②スクラッチ開発による専門家派遣や謝金支払処理を行う事務局向けシステムの移行 ③sAI Search・sAI Chat(FAQサービス/チャットボット) ④サイトリニューアル |
開発体制 | サイシードおよびアルサーガパートナーズの2社合同チーム体制 |
主な改良点 | ①専門家の終了報告をLINEの活用により簡易化 ②ブラックボックス化していた商工会・事務局向けの事務手続きシステムのリビルドおよびドキュメント化支援 ③登録事業者・専門家向けのFAQページの充実により、事務局への問い合わせ数を削減 |
目次
スキームは大きく変えずに、生産性を向上させるためにリビルド
サイシード 小林さん:
「中小企業119」をローンチする以前、中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業の専門家派遣事業を運営していた「ミラサポ」(以降「旧システム」)での業務フローの電子化とユーザビリティに課題を感じ、刷新をお考えになったのが、今回のプロジェクトのスタート地点と伺っています。旧システムを振り返っていかがですか。
中小企業庁 副島さん:
旧システムは本事業のみでなく、広く中小企業庁の施策を広報するためのポータルサイトとして運営されてきましたが、平成25年の運営開始から約7年が経過し、システムの脆弱性の懸念や、度重なる制度変更により継ぎ接ぎなシステム構成になるなどの課題を抱えていました。そこでこの機会に性質の異なる事業を切り分け、ポータルサイトとしての情報提供機能と専門家派遣事業を個別に立ち上げることでより良い仕組みへリニューアルしようということになったのがきっかけです。
サイシード 小林さん:
専門家派遣事業の新システムへの移行が決まった際、どんな世界観を目指したのでしょうか?
中小企業庁 副島さん:
我々が目指していたのは、ユーザーフレンドリーかつ強固な不正防止策を伴ったWebシステムを構築することで、手続き業務のDX化を推進することです。
旧システムには、支援を受ける中小企業・小規模事業者(以下、事業者)、支援をする専門家、両者をマッチングさせる地域プラットフォーム、事務局の4通りのユーザーがいました。特に事業者向けシステムには多くの課題がありました。度重なる制度変更に伴い、手続きが複雑化していたことに加え、事業者側はそれぞれID・パスワードを設定しなければなりませんが、制度利用が年間最大3回までという制度設計の中で、ID・パスワードを覚えていない方が多く、事務局で多くの問い合わせが寄せられていました。
経済産業省 佐々木さん:
本事業では派遣する専門家を選定するのは地域プラットフォームですが、旧システムのHPでは、事業者が派遣を依頼したい専門家を検索し、依頼できるかのようにミスリードを招く導線設計にもなっていました。
サイシード 小林さん:
ありがとうございます。不正防止という意味では、どのような課題があったのでしょうか?
中小企業庁 副島さん:
謝金を不正に受け取られることを防止するための取り組みとして、支援業務が終了した後、現場で支援を行った専門家、支援を受けた事業者、同席した地域プラットフォームの職員との「3ショット」の写真を撮影し送ることで、『確かに実施しました』と報告するアナログな方法がとられていました。また、不正防止の観点から事業の運用方法やルールも毎年変更が行われていたため、使い方が定着しないなどの課題がありました。
さらに、これまで派遣される専門家の旅費請求等の手続きは主に郵送で行なわれていましたが、制度面のスキームを維持しつつ、コスト削減という観点からも電子化したい。一方で、事業者の皆様にとっての使い勝手、UIなどは極力シンプルに使いやすいようにしたい。三者の使い勝手とDXを両立させるようなシステムにするための着地点を見つけなくてはなりませんでした。
スマホファーストの設計に大きく舵切り
サイシード 小林さん:
今回、中小企業119ではスマートフォン(以下、スマホ)利用を前提としたシステム構築をしています。近年「スマホファースト」のシステム作りを主眼に置くサービスが増えていますが、もともとスマホありきのリビルドを計画していたのでしょうか。
中小企業庁 副島さん:
『どうしたらユーザビリティと不正防止を両立できるだろうか』と考える中で、GPS機能を活用する案が浮かび上がりました。GPS機能を活用するためには、スマホ利用を前提とした仕組みにするべきという議論になり、スマホの利用率を調べたところ82%がユーザーであることがわかりました。ミラサポ発足当初よりもだいぶ普及率も上がっているので、専門家向けシステムについては、スマホ前提のシステムに切り替えてもいいだろうという結論に至ったわけです。
サイシード 小林さん:
専門家側がスマホオンリーで、他に選択肢がないというのは、行政として大きな舵切りではありませんでしたか。
経済産業省 佐々木さん:
専門家の中には、年齢層が高い方も少なくない中でスマホに振り切ったのは思い切った取り組みだと思います。ただ、デジタル・ガバメント実行計画を実現させるためにも、「Digital or Die」の思想をもって、思い切った対応をすることは必要です。実施後に反省点は出ますが、都度改善していければと思っております。
中小企業庁 副島さん:
今回、広く国民に対してではなく専門家向けのシステムであること、かつデジタル変革を目指す国全体の動きに後押しされた部分は大いにあります。また、専門家は中小企業の皆さんを応援する立場ですから、スマートフォンを使いこなせるリテラシーがあることを求めました。
ベンチャーならではのフットワークの軽さと積極性
サイシード 小林さん:
今回、大きなシステム改革を執行するにあたり、ベンダー探しをはじめられる以前にどんなことを懸念されていましたか?
中小企業庁 副島さん:
最も大きな懸念点は、旧システムで制度改正やシステム改修が繰り返し行われていた影響で、調達前に旧システムの仕様の全貌把握に時間がかかったことでした。そのため、確保した予算の中で我々が目指すシステムが作れるか、また年度内に開発が終えられるベンダーを見つけられるのかは、本当に心配していました。
経済産業省 佐々木さん:
従来のスタンダードは、発注元がRFP(提案依頼書)を用意し、システム構築の発注先候補となるITベンダーに具体的なシステム提案を行うよう要求することです。しかしRFPの作成を調達に盛り込む作業はとても時間がかかりますし、今回のように全貌が見えていないシステム開発においては、事前にRFPを用意することは、とても困難でした。
サイシード 小林さん:
そうした中で、今回私たちのチームは従来行政のシステムを多く手掛けてこられた大手ベンダーさんと比べ、ベンチャー色が強いと思うのですが、もともとベンチャー企業での開発を主眼においていたのでしょうか。
中小企業庁 副島さん:
予算とスケジュールありき、かつ「スマートフォンアプリの開発が得意な会社」という軸でベンダー探しをはじめ、大手ベンダーにもベンチャー企業にもお声がけしました。話を聞いてみると、ベンチャー企業も今回私たちが目指す座組みを達成する技術力を十分に有することがわかりました。そして、入札の結果、私たちが目指す提案をしてくださったところがサイシード様でした。
経済産業省 佐々木さん:
実際、ベンチャー企業の技術力は高いですし、仕様のイテレーションに対応してもらいやすいと思います。大手ITベンダーは、最初に定義した要件を達成することに長けている反面、仕様変更への対応が難しいケースが多々あります。その点、ベンチャー企業の方が急な仕様変更の相談に乗って頂けた点は、良かったですね。経済産業省、中小企業庁のプロジェクトでは、ベンチャー企業と一緒に取り組ませて頂くことも多いのですよ。何かと気軽に相談に乗って頂けたり、解決策を頂けたりするのはベンチャー企業の良いところですね。
中小企業庁 副島さん:
実際に開発が始まってみると、サイシードさん、アルサーガさんのチームはフットワーク、レスポンスがとても速く助かりました。加えて従来は、打ち合わせをしたい場合には対面が前提でしたが、今回の開発では、コロナの影響もあり、打ち合わせをオンラインとしたこともスピード感が持てた要因の一つかもしれませんね。
アジャイルの思想とワンチーム体制が開発成功の鍵
サイシード 小林さん:
今回は開発初期はウォーターフォールで進めつつ、UX・UI設計ではアジャイル型開発の良いところを取った形で開発させていただきましたよね。要件定義で苦労された点はどういったところでしたか。
中小企業庁 副島さん:
今回は抜本的にシステム設計が変わったため、Backlogに簡易的な業務フローを書いてSLA(サービス品質保証)として読み解いていただくことからはじまりました。ほぼゼロベースからの開発だったため、完全にアジャイル型開発で、Sprintで切って進めていくという方法も検討しましたが、XD上でUIを作っていただきながら仕様を固めていくやり方をご提案頂きました。プロジェクトメンバー全員で、フロントエンドの認識を合わせられたことはありがたかったですね。
アルサーガパートナーズ 小澤:
行政のプロジェクトということで、『もっとかっちりと組まれている』と想定していましたし、実際はそうでなかったことが逆にすごいとも思えました。ある程度の業務フローがウォーターフォールで決まっていて、それに対してUIで打ち返すという方向性で進めていくやり方は、求められているものに打ち返せている感がすごくあり、自由にやらせていただきました。そしてこちらの意見・提案も自由にさせていただき、それこそベンチャー同士でやり取りしていると錯覚するほど、スピーディーにやり取りできたことが印象的でした。前任者の方がBacklogを導入してくださったことも助かった点です。
中小企業庁 副島さん:
とはいえ、開発をやりながら軌道修正が多く、サイシード様、アルサーガ様にご迷惑をおかけしたという印象が強く残っています(笑)。謝金システムとの連携面や外部要因など、何か課題が起きるたびに、ディスカッションをさせていただき、我々が考えられないようなとこで助けられましたね。
経済産業省 佐々木さん:
仕様に幅を持たせているところが多かったので、サイシード様、アルサーガ様から意見を頂けるのはありがたかったです。良いチームをつくってもらえたのがキーファクターだと感じます。
サイシード 小林さん:
アルサーガさんには再委託という形になりますが、なるべくフラットな体制でやることを心がけており、一心同体というか、密にコミュニケーションを取らせていただき、BacklogだけでなくSlackでもこまめに情報共有していました。
アルサーガパートナーズ 小澤:
中小企業庁様から見た私たち両社が、バラバラに動いているような印象を持たれないことが狙いのひとつでした。サイシードさんとコミュニケーションを取らせて頂いたSlackでは、スタンプの使い方など企業文化的に近いところがあり、良いチームで開発できたのではと思います。
中小企業庁 副島さん:
Backlogを通じて作業の進捗を把握できたことに加え、毎週の定例会で常に顔が見える状況で開発を進め、信頼関係が深まりました。また、さまざまな関係者を巻き込んでリニューアルを進行できたことも成功要因でしたね。事業者、専門家と触れる機会が多いのは事務局なので、定例会にも一緒に入ってもらいました。サイシード様、アルサーガ様の開発チーム側と事務局側には契約関係がないので、本来はむずかしいはずですが、皆さんの理解があってこそ実現した進め方でしたね。
サイシード 小林さん:
事務局の方もユーザーの一人ではあったので、議論をすることでアジャイル的に進められた点は本当に助かりました。
アルサーガパートナーズ 小澤:
定例会時にユーザーヒアリングも実施できたことで、さまざまな年齢層の意見が聞きやすく助かりました。画面遷移を細かく設定していたので、イメージを共有しやすかったのも良かったかもしれません。
経済産業省 佐々木さん:
フロントエンドやチーム作りが成功要因である一方で、事務局が謝金管理のために利用しているSalesforceとの連携に関する開発は、Salesforceの仕様が正直ブラックボックスだったため、画面遷移がうまくいかなかった部分もあったのは反省点です。
アルサーガパートナーズ 小澤:
謝金手続きに関するシステム連携は本当にブラックボックスで、システムの構造を理解するのに時間がかかりました。専門家が使うスマホ側の設計は自由に提案できたので、制限があった点は、正直大変でした。
サイト名称の”決選投票”も。ベンチャーならではの柔軟性が魅力
サイシード 小林さん:
今回、サイシード、アルサーガのチームとご一緒させていただいて、印象に残ったエピソードなどありましたら教えて頂けますか。
経済産業省 佐々木さん:
アイディア出しなどにも積極的かつ柔軟に対応いただけたことでしょうか。「中小企業119」という事業名称は、全社で数案ずつ出して、最終的に決選投票までして決定しました。その際、サービス名の由来も作ってくださり、本当に助かりました。
中小企業庁 副島さん:
サービスロゴの新規作成など、もともとの仕様に盛り込んでいなかったことまで積極的にご提案いただくなど、様々なシーンで意見をいただけることがありがたかったです。
経済産業省 佐々木さん:
見える部分だけではなく、バックエンドの部分でも、積極的にご対応頂けたことも印象的でした。謝金システムとの連携に苦労はしたものの、Backlog上で何度も往復して議論しているのを見て、課題に対し瞬時にサイシード、アルサーガ側で対応してもらえていたことが3月末にリリースできた大きな要因ですね。
中小企業庁 副島さん:
そういえば、専門家向けシステムをLINEのみを前提とする仕様ではなく、PCにも対応しようという議論をした際も各方法論のメリット・デメリットをきちんと整理してご提案いただきましたよね。スピーディーかつ納得感のある判断をするのにとても参考になりましたので、今後に向けて検討していきたいと思います。
不正防止とペーパーレス化を両立。FAQも月間1~2万件の利用数に
サイシード 小林さん:
中小企業119の運用がスタートし、どんな変化がありましたか?
中小企業庁 副島さん:
今回、全ての申請をオンラインで完結できるシステムが実現し、現場からは「郵送の手間がなくなったので便利になった」との声が挙がっており、ユーザーの使い勝手がよくなっている実感が得られています。事務処理のスピードにも寄与し、人件費や管理コストの削減に貢献しています。これまでの行政にないシステムにすることができたものと思っております。
経済産業省 佐々木さん:
従来のプロジェクトでは、打ち合わせひとつとっても、来社前提でベンダー側に稼働がかかっていましたが、今回はコロナ情勢下で、あまり対面で打ち合わせをせずに、スムーズにプロジェクトを進められたのは大きいですね。オンライン会議とBacklogでスムーズにコミュニケーションが取れていたのは個人的に大きい成果で、次のプロジェクトにもぜひ活かしたいです。
中小企業庁 副島さん:
効率的な進め方を推進することで、金銭的にも時間的にもコストが省略化できました。旧ミラサポはオーバースペックだったので、本当に必要な機能を抽出して構築できたと実感しています。
自動化とデータの管理がこれからの鍵
サイシード 小林さん:
今後の「中小企業119」、あるいはお二人が手掛けるプロジェクトについての展望を教えてください。
経済産業省 佐々木さん:
事務局側の謝金システムに使用しているSalesforceにおいて、旅費計算をある程度自動化するような高度な活用ができるようにしたいですね。その分、浮いたコストを別の発展的な使い方をしていきたいです。
経済産業省 佐々木さん:
ソースコードの管理はGithubで一元管理する方向に移行しつつあります。パラメーター指示などは一元管理すると思いますし、メンテナンスの部分でもDXを推し進めていかなければいけないでしょう。
中小企業庁 副島さん:
今回の課題となった謝金システムのブラックボックス部分についても、一元管理が進むことでそれらの課題も解消されるのではないでしょうか。
アルサーガパートナーズ 小澤:
ブラックボックス化を防ぐためにはドキュメント化がポイントになりますが、今回開発フェーズでは、スケジュール的にドキュメントをきっちり作成するのは厳しく、なるべくBacklogに残していこうという方針で進めました。今後の保守・運用フェーズでは足りないドキュメントを作成していければと思います。
中小企業庁 副島さん:
ユーザーの声をひろってUIの改善にも活かしつつ、マニュアル等に落とし込んで、今後メンバーが変わっても運用していけるようにしたいですね。また、現在sAI Searchは月間1~2万件ほど使われていますが、タブ選択式のままでいいのかなど定期的な見直しもしながら、さらなる問い合わせ数削減へとつなげていきたいです。
経済産業省 佐々木さん:
UIの改善に加え、専門家と地域プラットフォームの間のマッチング機能を強化したいです。人的つながりに頼っているマッチング作業を、省力化・シームレス化し、専門家評価を見える化することで事業者にとって、最適な専門家が選択される環境を整備したいです。
中小企業庁 副島さん:
ゆくゆくは旅費計算等も機械判読可能な状態でデータを取得して、計算の自動化を実現しコスト削減につなげていきたいと思います。属人的な業務を減らすことで、メンバーが変わっても、それまでと変わらないクオリティを実現できるといいですね。
サイシード 小林さん:
本日はありがとうございました。
アルサーガパートナーズは、日本全国のDX事業の推進において、戦略フェーズから開発実装フェーズ、運用フェーズまでをワンストップで対応できる開発会社です。
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▼「中小企業119」の制作事例はこちら
https://www.arsaga.jp/work/chusho119/